Gerssen et al. (2002) は球状星団 M15 に 3,000 太陽質量程度のブラック ホールを発見したと報告した。また、Gebhardt et al. (2002) は、M31 内に球 状星団 G1 に、 太陽質量のブラックホールを発見したと報告 した。これらはいずれもハッブル宇宙望遠鏡によって星団中心部の星の速度分 布を求めて、それを説明するにはブラックホールが必要であると結論している。
もしもこれらの主張が本当であるなら、球状星団の中に、恒星質量よりもはる かに大きなブラックホールを発見した最初の例となる。これは球状星団の形成、 進化という観点からも、また、銀河中心の巨大ブラックホールの形成過程の理 解という観点からも極めて重要である(Ebisuzaki et al., 2001)。
しかし、これらの報告は、にわかには信じ難いものでもある。 M15 の中心密 度は確かに高いが、これは従来典型的な post-collapse 球状星団として理解され てきていた。 G1 は有限サイズのコアを持つ、キングモデルで十分フィットで きる星団であり(Djorgovski et al., 1997; Meylan et al., 2001)、その中心に巨 大ブラックホールがあるというのは非常にありそうなことではない。
そこで、我々は、現実的な 体計算の結果と観測で得られた密度、速度プ ロファイル等を比較することで、観測の説明にブラックホールが必要かどうか を検証することを試みた。方法、結果の詳細は既に雑誌論文 (Baumgardt et al., 2003a,b)で報告したので、ここでは 仮定と結論を簡単に紹介する。詳しくは元論文を参照して欲しい。以下、 2 節で M15 の場合、 3 節で G1 の場合の検証について説明し、最後に 4節で我々の結果の意味するところについて議論する。