得られた主な結論は以下の通りである。まず、研究者コミュニティの中 での研究グループに対する評価は、たとえば論文生産数、あるいは論文 の被引用度といった通常のマクロ研究で用いられる指標による評価と必 ずしも一致するものではないということが明らかになった。2つのグルー プ間で定量的尺度で測定した「優秀さ」に有意な違いを認めることがで きなかったのである。かろうじて引用の多い論文数についてはある程度 の違いが見られた。この結果は、研究コミュニティのなかでの評価が意 味がないものであるというふうにとらえるべきではないであろう。むし ろ、数量化された尺度が現実にそぐわないものである可能性を示唆する ものと考えられる。
「優秀さ」のより現実的な意味をさぐるために、我々はグループ 間で研究者の「守備範囲」の広さを比較した。どちらのグループでも、 個人の守備範囲の広さとその論文生産性には顕著な相関が見られた。し かし、グループ間で平均の守備範囲に大きな違いがあることが明らかに なった。我々が扱った2グループの場合、この、守備範囲の違いは研究者 が新しい分野を開拓した程度の差に基づくものと考えられる。これは、 研究コミュニティのなかでの評価は、単なる論文数ではなく、どの程度 科学の発展に寄与したかの現実的な評価に基づくものであることを示唆 する。このような評価に対応する定量的な尺度を構築すること、また、 研究グループのどのような特性の違いがこのような貢献度の違いにつな がるのかを明らかにすることは今後の課題である。