本年度はプロジェクト自体は既に終了しており、プロジェクト自体の直接の成 果というべきものは特にないが、関連するもの、昨年度の報告書ではカバーで きなかったもの等について簡単にまとめる。
昨年度の報告書の時点では、 GRAPE-6 のうち重力プロセッサ部分は 32 ボー ドからなり、ピーク性能は 32 Tflops であったが、2002年4月に 64ボード、 64 Tflops のシステムが完成した。
64 Tflops システムは論理的には4クラスタからなる。1クラスタは16ボードか ら構成され、これがさらに4分割されてボード4枚毎にホスト計算機がつく。ク ラスタ内の各ボードは重力計算に適したマルチキャストが行える専用ネット ワークで接続されている。ホスト計算機は AMD Athlon XP 1800+ を CPU とす る Linux PC である(図 2の前に見えている)。
クラスタ間の通信はホスト計算機の持つ Gigabit Ethernet (GbE)ネットワークで行 う。並列プログラムの開発自体は MPI (MPICH/pr over TCP/IP) で行ったが、 MPI の通信関数では GbE カードの性能を引き出すことができなかったため、 TCP/IP ソケットをアプリケーションプログラムが容易に利用できるようにす るための関数群を定義、実装した。これにより 60MB/s 程度の実効転送速度が 実現できた。
このシステムにより、太陽系のカイパーベルト領域の 180万粒子を使ったシミュ レーションで、29.5 Tflops と科学技術計算で報告された限りでは世界最高速 を達成した。1この成果により 2002年ゴードンベル賞のファイナ リストに選ばれた。なお、ゴードンベル賞(ピーク性能部門)は地球シミュレー タが獲得した。これは、地球シミュレータの技術的達成を評価したものである というのが審査委員会の見解である。
50万ゲート規模の FPGA を実装した多用途プロセッサモジュールが完成し、 SPH 法等の計算機アルゴリズムを実装した。
本プロジェクトで開発したプロセッサボード等の量産は、(株)浜松メトリック スが行った。この経験を生かして浜松メトリックスは GRAPE-6 を製品化し、 国内外の研究機関に販売している。販売台数は 30 を超えており、世界の天文 学研究に大きな貢献をしている。
前節で述べたように GRAPE-6 は東大のみならず世界各国で利用され、天文学 研究に大きな成果をあげている。ここでは、主に東大での成果について 簡単に触れたい。
大きな成果の一つは、現実的な条件化での球状星団の進化の解明である。これ は主に現在学振外国人特別研究員である Holger Baumgardt によってなされた ものであるが、10万粒子程度を使って銀河の潮汐力や恒星進化の影響などの現 実的な効果をとりいれた星団進化の計算を系統的に行い、球状星団の誕生から 蒸発までの進化、特に寿命の初期条件への依存性を初めて 体計算により求めることができた。
この他、銀河内での衛星銀河の軌道進化について新しい知見を得る、あるいは 惑星の周りのリング系について、楕円リングが発生する新しいメカニズムを発 見するなど、多彩な成果をあげつつある。