さて、安定性というものを定義しないといけない。そのために、まず、「定常 解の安定性」というものを考えることにする。定常解とは、 要するにある というものがあって、
を満たすもののことである。まあ、 x が微分方程式の右辺に入っていると、 特別な条件の下でなければ定常解はないので、以下
の形、つまり右辺に x が入らないものを考える。これを自律型という。こ の時はもちろん定常解の満たす方程式は
ということになる。
さて、この解が局所的に安定かどうかというのは、以下のような意味であると 考えられるであろう。
「なんらかの理由(外乱とか)で、定常解から少し離れたところに解がいった 時に、もとの解にもどる」ということをさして安定であるという。
ちょっと図に例を示してみよう。左の図のように、盛り上がったところの一番 上にボールかなにかをおいたら、ぴったり頂上におけばそれは止まっている。 つまり、頂上は定常解である。 しかし、すこしでも頂上、すなわち定常解からずれたらそのままころげおちて しまう。これは不安定な定常解ということになろう。
これにたいし、右の図のように谷底ならば、すこしずれたらもとのところの戻 ろうとする。さらに、摩擦や空気抵抗があるから、そのうちにもとのところに止 まる。これは安定解ということになる。
仮に、厳密に水平な面が広がっていたとすれば、少し動かすと動かしたところ でそのまま止まっていることになるであろう。これは中立安定状態ということ になる。
上の説明は直観的ではあるが、ちょっと怪しいところがある。この場合どんな 方程式を考えているのであろうか?例えば以下のような方程式ということになろう:
ここで、 は地面からの力であり、 第二項は抵抗による力である。 抵抗は速度に比例するということにしておく。これはyと の2変数 の方程式である。
さて、これの定常解(この場合平衡解という言葉をつかうことのほうが多い) の回りで、解がどう振舞うかを調べてみることにする。平衡解は
である。今、
とおいて元の微分方程式を書き直す。この時、 fが
と近似出来ることに注意すると、
あるいは、行列形式なら
ということになる。これはもちろん以下の形の解を持つ
ここで、 とは行列Aの固有値である(今、縮退し ている場合とかはちょっと置いておく。式は特別になるが振舞いはたいして変 わらない)。 固有方程式は
の形をとる。ここで、 としておく(抵抗が速度 と逆方向に働く)とすれば、k の値によって解の振舞いは5つの領域に分か れる。
一般の微分方程式でも、定常解があればその回りで線形化することで同様な議 論ができることになる。安定であるということの条件は、全ての固有値の実部 が負であるということである。
なお、念のため注意しておくが、一般の場合には、複素固有値で実部が正とい うばあいもありえる。上の例ではそれが起きなかったのは、 という条件をつけたからである。これを外す(負性抵抗)と、k<0 の時に振 動しながら平衡値から遠ざかっていく解が現れる(振動的発散)。