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星の内部構造を解く問題は、非線形の境界値問題であることを既に述べた。
主系列近傍の恒星の内部構造は、フィッティング法で解けた。
1960年代に恒星進化の理論は、主系列から赤色巨星への進化を追うようになったが、
赤色巨星になると、表面での境界値に対する依存性が鈍くなって、
フィッティング法では上手く解くことが出来なくなっていた。
こういった状況をブレークしたのは、カリフォルニア大学の
Henyeyであった。彼は、一種のrelaxation methodで代数方程式を解くことに
成功したのである
。
この方法は、一般の2点境界値問題に適用出来る方法で、
天文学の社会では、Henyey法と呼ばれている。
以下に、このHenyey法を解説しよう
。
問題とする微分方程式を
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(192) |
とする。
独立変数の領域をメッシュに切って、微分方程式を差分方程式に書き換え、
これを数値的に解くことを考える。元の微分方程式を4階の微分方程式だとすると、
計本の差分方程式となる。これらは4つの変数
の
個のメッシュそれぞれでの値、合計
個の未知数、、の代数方程式と見なすことができる。
未知数の数と方程式の数が合わない?
このままでは、その通り。しかし、境界条件があることをお忘れなく。
内側の境界に境界条件が2本、外側の境界にも2本、合計4本の境界条件
の式があるので、方程式の数は合計本になって、未知数の数と同じになり、
代数方程式は原理的に解けるのである。
ただ、これは「原理的に」である。
この方程式が非線形であれば、そのまま解くのが容易でないのは明らかであり、
線形であったとしても、
実際に数値的に解けるかどうかは、
による。実際的には、とすると、元の代数方程式
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(193) |
を解かねばならないことになり、これを直接、
の行列
の逆行列を計算して
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(194) |
とするのは、実際的ではない。
もの大行列の逆行列
を求めるのが困難だからである。
従属変数のでの値であることを表わすのに、上付き添え字をつけて
で表わすことにする:
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(195) |
微分を差分に置き換えると、(8.105)式は
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(196) |
となる。
但し、
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(197) |
である。
中心と表面での境界条件を、それぞれ、
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(198) |
と
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(199) |
としよう。
このままでは、方程式系は非線形である。推定値からのずれを取り扱うことにして、
問題を線形化しよう。
即ち、真の解についての推定値をとして、
真の値からのずれをとする:
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(200) |
(8.113)式を
(8.109), (8.111), 及び(8.112)式に代入して、
の2次以上の項を無視すると、
次の本の式を得る:
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(201) |
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(202) |
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(203) |
整理すると、
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(204) |
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(205) |
それに
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(206) |
但し、ここに
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(207) |
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(208) |
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(209) |
であり、
は Kroneckerのデルタを表す。
また、
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(210) |
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(211) |
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(212) |
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(213) |
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(214) |
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(215) |
で定義する。
方程式(8.117)-(8.119)は、個の未知変数に関する
線形方程式である。
一見したところ、この方程式系は大行列を要し、解くことが出来ないと思えるかも知
れない。しかし、係数行列の要素の多くはゼロである。実際、
、
、
、
、
等と記して、方程式(8.117)-(8.119)を行列で表すと、
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(216) |
になり、左辺のの係数行列の対角帯以外はゼロである。
Henyey法は、この特質を有効に利用するのである。
まず、2本の中心での
境界条件の式(8.118)と、最初の差分方程式(8.117)のうちから2本
(, 2)をセットにして考える。この4本の式は次の様に表される:
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(217) |
ここに
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(218) |
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(219) |
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(220) |
である。
この4本の方程式は、8個の未知変数、
を含むから、
個の変数は、残り4個の変数の線形従属として表すことが出来る。即ち、
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(221) |
但し、ここに
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(222) |
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(223) |
であり、
は
の逆行列を表す。
(8.134)式は、一旦
が求まれ
ば、
が求められる
ことを意味している。
次に、の(8.117)式の残りの2本
と、の(8.117)式の最初の2本 のセットを考える。
このセットは
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(224) |
と表される。但し、ここで
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(225) |
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(226) |
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(227) |
それに
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(228) |
である。
(8.134)式を(8.137)式に代入して、
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(229) |
を得る。但し、ここで、行列
と
は
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(230) |
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(231) |
で定義する。
(8.142)式は
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(232) |
と一般化した漸化式に書くことが出来る。但し、
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(233) |
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(234) |
であり、
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(235) |
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(236) |
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(237) |
それに
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(238) |
である。
(8.145)式は、一旦
が求まれば、
が求められる
ことを意味している。問題をいつまでも先送りしているだけの様に見えるかもしれな
いが、そうではない。
一番外側のメッシュ点では、
での(8.117)式の残りの2本の式と
表面での2本の境界条件
(8.112)式とで
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(239) |
を得る。但し、ここで、
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(240) |
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(241) |
それに
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(242) |
である。
の(8.145)式を(8.152)式に代入すれば、
次の正方行列
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(243) |
と
列ベクトル
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(244) |
を使って、
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(245) |
となるが、
()の逆行列を
(8.158)式にあてがえば、
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(246) |
を得る。こうして、ここにきて、一番外側のメッシュ点での解
が求められるのである。一旦、が決まれば、
これをに対する(8.145)式に代入すれば、
についての解 を得る。同様の操作を繰り返し、
解 が順次得られる寸法だ。
が充分小さくなるまで補正を繰り返してや
れば、逐次解を得ることが出来る。
こうして、非線形常微分方程式の境界値問題を、推定した解の近傍で線形化して、解
くことが出来ることが判ったと思う。線形化した点が、Henyey法の真髄ではない。
線形化して得た、方程式(8.129)を、左辺の大きい係数行列の逆行列を求め
るのが困難なところを、小行列に区分化して、解いていった点が本質なのである。
元の係数行列は次であった。それに対して、Henyey法ではの区分行列を回取り扱うのである。行列の演算は、行列の次元の二乗に比例する
から、元の係数行列そのものの逆行列演算はに比例するのに対し、Henyey法で
は、にしか比例しない。従って、が大きくなるにつれて、Henyey法の優越性
が顕著となる。
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Jun Makino
平成15年4月17日