ここまで述べてきたことは、
とまとめることができる。
線形 Landau damping では粒子のエネルギーが変 わらないので、通常の意味で熱平衡に近付いているのではないということはあ きらかであろう。しかし、重力がある場合はどうだろう?エントロピーが生成さ れていないからといって、なんらかの意味で熱平衡に近付いていないと断言で きるだろうか?
このような問題意識には、観測的な理由もないわけではない。それは、楕円銀 河というものの存在である。
楕円銀河というのは、結構たくさんあるわけだが、これはどれも似たような形 をしている。これはたんに形が似ているというだけではなく、実は、半径方向 の密度(表面輝度)分布に比較的に共通性が高いということがわかっている。 具体的には、いわゆる 則、あるいは Hernquist Profile で良く近 似できているわけである。
楕円銀河がどういうふうにして出来たかは良くわかっていないが、初期条件が どれもこれも非常に良く似ていたというのはあまりありそうにない。それにも 関わらず、みんなが良く似た形をしているというのは、なんらかの熱平衡にむ かうような緩和過程の存在を示唆しているのかもしれない。
というようなことを考えて、 Lynden-Bell (1967) は violent relaxation と いうものを提案した。彼の論理は、大雑把にいうと以下のようなものである
なお、 Lynden-Bell統計であって普通のMaxwell-Boltzman統計には従わない理 由は、 の値に制約がある(初期の分布の最大値を超えられない)からで あるそうである。
Lynden-Bell は大変偉い先生であるので、この提案は大きな影響力を持った (現在も持っている)。
上の、 violent relaxation が本当に有効に働くとすると、どんなことがおき ることになるかをちょっと考えてみる。これによって起きる緩和は、いくつか の点で通常の熱平衡に向かうものと異なっている。
Violent relaxation というのは、いろいろな意味で魅力的な提案であったの で、数値実験によって実際にそんなにうまくいくかどうか調べようという試み が多数なされている。ここでは、その代表的なものである van Albada (1982, MNRAS 201, 939)を取り上げて、どんな結果になったかをまとめる。
計算は極座標でポアソン方程式を球面調和関数展開してポテンシャルを求める 計算法によっている。このために、 1982 年というかなり昔でありながら、 5000粒子というこの目的には十分な数の粒子(粒子の数の意味については 来週扱う)を使うことができた。
初期条件は、粒子に少しだけランダム速度を与えて、大体球状(実際には、い ろいろ変化させているが)に分布させ、手を離してどうなるか見るというもの である。
この図は、あるケースについて をプロットしたものである。 は 分布関数ではなく、 を満たすような、つまりはあるエネルギー 範囲にある粒子の数である。これを使うのは、数値計算で実際に分布関数 を求めるのはいろいろ困難があるのにたいし、理論計算では から を 出すのは機械的だからである。
初期には狭いところに集まっているが、落ちついたあとでは広がっている。こ れは、ある程度まで violent relaxation というものが起こっているというこ とを示してはいる。
これは、初期のエネルギーと落ちついた後のエネルギーの関係を示している。 明らかにわかることは、非常に強い相関が残っているということである。つま り、もともとエネルギーが低かったものは相対的に低いまま、高いものは高い ままに留まる傾向がある。
これはさまざまな初期条件からの結果をすべてまとめたものである。( をプロット)初期条件によって、 はいろいろであり、とてもある一つ のものに向かうといえるようなものではないということが見てとれるであろう。
結局のところ、 Lynden-Bell が主張したような violent relaxation は、全 く働かないというわけではないが十分に熱平衡に近い状態を実現できるほど有 効に働くわけでもない。このために、無衝突系の最終状態は初期条件の記憶を 強く残している。
例えば楕円銀河が合体で出来たという説に対する反論として、「合体したら violent relaxation によってよく混ざるはずであるから、 color gradient などの構造があるのはおかしい」という主張がなされたことがあったが、現在 ではこれは合体説に対する反証とは考えられていない。