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4 無衝突系におけるカオスの役割

この講義ではほとんど球対称な系しか扱わなかった。球対称の場合には軌道は 必ず regular なので、カオスのでる幕はないが、軸対称になると既に原理的 には良くわからないことが起きてくる。 さらに、3軸不等な一般的なポテンシャ ルになると、多くの場合に chaotic orbit があることがわかっている。

あるポテンシャルでカオス的な軌道があるとすると、原理的には、では実際に そういう軌道が現実の銀河等で存在できるかということが問題になる。現在ま でのところ、例えば3軸不等な銀河モデルを構成しようという試みのほとんど 全ては regular orbit の組合せでポテンシャルを再現しようとするものであ る。これは M. Schwarzschild (有名な K. Schwarzschild の息子。 Stellar evolution の理論的研究で有名)が 1980 年代になって発展させた方法である。

ところが、前回考えたような、系の中心にブラックホールがあるようなものを 持ってくると、あるタイプの軌道 (box orbit と呼ばれるもの) regular では 無くなるということが知られている。これは、3軸不等な系や、軸対称でも回 転している系、あるいはバーを持つ系では、カオス的な性質によって恒星がブ ラックホールの近くに来ることができるかもしれないということを意味してお り、ブラックホールの進化、成長についてなんらかの意味を持っているかもし れない。 が、これはここ数年になってある程度理解が進んできた領域であり、 まだ解明されていない問題のほうが多い。



Jun Makino 平成20年7月9日