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1 適応型格子

ここまでは、差分法、つまり、もとの偏微分方程式に現れる時間・空間微分 自体を差分近似する方法を紹介してきた。この方法はもちろん一般に広く用い られている。しかし、現実の応用では差分法ではあまりに不便であるとか面倒 であるという場面も多い。

一つの理由は、差分法の普通の実装では、空間分割が規則的である、例えば前 回扱ったような、長方形領域を規則正しく並んだ正方形に分割する必要がある からである。丸い領域なら極座標を使うという方法もあるが、例えば、四角い 領域に丸い穴をあけた領域をどう扱うかとなるともうそんなにうまい方法があ るわけではない。

もっとも、特に2次元での応用、例えば飛行機の翼断面の回りの空気の流れの 計算といった場合には、「一般化座標」というものでこういった問題に対応す るということが普通に行なわれている。これはどういうものかというと、要す るにまず長方形を正方形分割した格子を準備しておいて、これを翼断面に張り つくようにねじ曲げるわけである。そうすると、そういった曲がった座標系上 でのものにもとの微分方程式を書き換えてやることで、ある程度一般的な形状 にたいして規則的な格子で対応できるということになる。

もっとも、これは極めて面倒な方法であり、方程式を書き換える際にはリーマ ン幾何学を駆使して曲がった空間(というか座標系)上の方程式を書き下すと いうことになり、一般相対論の本でもないのに計量テンソルがどうこうという ことを扱うことになる。

また、仮に境界形状が単純であっても、規則的な格子ではうまくいかない場合 もある。例えば、非常に簡単な例としては、途中で太さが急に変わるような棒 に力をかけた時にどのように曲がるかを数値的に解こうとする場合を考える。 ここでは、「応力集中」という現象が起こって、急に太さが変わるところだけ に力が集中して大きく変形し、それ以外のところの変形はずっと小さい。

少し古い話になるが、高速増殖炉「もんじゅ」の事故では、配管の中に出てい た温度計(だったかな)?のサヤがまさにそのような応力集中が起きるような 構造になっていた上に、さらに「対称渦」という原子炉設計時には考慮されて いなかった流体不安定が重なってそこで折れるにいたったものらしい。カルマ ン渦についてはさすがに考慮されていたが、対称渦は少なくとも設計者は知ら なかったようである。

と、そんなことはともかく、こういった形状をちゃんと計算しようと思ったら、 応力集中が起きる部分を他よりも正確に計算する必要がある。もちろん、全部 を細かい格子で正確に計算すればそれでもいいわけであるが、それでは計算が 有限時間でおわらなかったりするからである。

しかし、差分法ではそういうものに対応するのは非常に難しい。

対応しようとする方法はないわけではなく、その一つは nested grid といわ れる、大きさが違う格子を重ねる方法である。これは最近は天文でも特に星形 成のシミュレーションなどでよく使われるようになってきている。これはかな りうまくいくようになってきてはいるが、格子が変わるところで面倒な処理が 必要になり、プログラミングも複雑になる。

もうちょっと一般的に、格子が規則的でない、適当な3角形分割(ポリゴン分 割)とか4面体分割に対して数値解を求める方法を考えようというのが有限要 素法の考え方である。今日は、その基本的な原理を前回と同じラプラス/ポア ソン方程式を例にして考える。



Jun Makino
Wed Nov 1 20:00:13 JST 2000