東大・国立天文台グループ、世界一の電力効率をもつスーパーコンピュータを完成 〜電力あたり性能ランク Little Green 500 Listでトップ1に〜

平木敬(東京大学 大学院情報理工学系研究科 創造情報学専攻 教授)
牧野淳一郎(国立天文台 理論研究部 教授)


概要/ 意義/ 詳細説明/ 今後の発展/ 関連リンク/ 資料写真等/ 用語解説

概要

東大・国立天文台が共同開発した スーパーコンピュータシステムGRAPE-DR は、 7月1日、電力あたりの性能のランク付けを行うGreen500プロジェクトが発表し た2010年6月の「Little Green 500 List」でTop1にリストされ、世界一の電力 あたり性能を実現していることが認定されました。GRAPE-DRは、HPL ベンチマー クで 1 ワットあたり 815Mflops の処理性能を実現しました。これは、現在世 界最高速のCray XT6 システムの約3倍の電力あたり性能を達成したことで、世 界中がしのぎを削っている分野である、スーパーコンピューティングにおける 超低消費電力化において、我が国が世界をリードする技術を確立したことにな ります。

意義

  1. 世界一の省電力スーパーコンピュータ技術を実現し、スーパーコンピュータで問題となる運転費用を大きく削減することを可能にしたこと
  2. これにより、次々世代のスーパーコンピュータ実現のための最重要課題 であり、炭酸ガス生産量抑制にも重要な消費電力削減で大きく前進したこと
  3. 次々世代スーパーコンピュータの基本技術を確立したこと

詳細説明

スーパーコンピュータの性能向上は激しい国際競争があり、1年ないし1年半で 2倍というハイペースな進歩が続いています。しかし、近年になって、処理性 能向上に伴う消費電力の増加が大きな問題になってきています。膨大な消費電 力は、環境負荷の面からも大きな問題であり、また単純に計算機利用のコスト 増にもつながります。このままでは、数年後には計算機本体の費用と、運転費 用である電気代が逆転すると予測できます。このような状況から、計算機の電 力あたり性能を向上させることが、次々世代のスーパーコンピュータ開発の最 重要課題となっています。

Green 500 プロジェクトは、このような状況を予測したバージニア工科大学 のFeng 教授が2006年にIEEE で提案したことから始まっており、 HPL ベンチ マークでの電力あたり性能を順位付けすることで、電力あたり性能が高い計算 機の開発・普及を促進しようというものです。

今回、東大・天文台が共同開発した GRAPE-DR システムが Little Green 500List で首位を獲得したことは、次々世代のスーパーコンピュータ開発の最 大の課題の解決方向を、世界に示すことができた、という大きな意義があると 考えています。

今回の速度・消費電力の測定は、国立天文台三鷹キャンパスに設置された GRAPE-DR システム(写真1) で行いました。測定に使ったシステムは、 GRAPE-DR システム全体のうち64ノードであり、 1 ノードは GRAPE-DR ボード 1枚、インテル製 Core i7 -920 CPU、 ASUS 製マザーボード、18GB DDR3 メ モリ、x4 DDR インフィニバンドネットワークからなるもので、東大・天文台 で開発した GRAPE-DR ボード(写真4)以外は一般市販部品を使用しています。

GRAPE-DR ボードを利用せず、インテル製 CPU だけを使った場合、今回測定対 象にした HPL ベンチマークでの性能は 2.2 Tflops (Tflops は1秒に1兆回の 演算をする速度)となり、消費電力あたりの性能は 150Mflops/W (1ワットあた り 1億5千万回の演算)程度となります。 GRAPE-DR ボードを使うことで、同じ 台数のシステムで性能を 10 倍以上の 23.4 Tflops まで向上させ、電力あた り性能をも 5 倍以上の 815Mflops/W に引き上げることができました。この電 力あたり性能は、HPL ベンチマークでの測定結果として世界最高です。

ちなみに現在、世界最高速のオークリッジ国立研究所の Cray XT6 システムの 消費電力は、7MW(計算機本体のみ)にのぼります。これは、236Mflops/W に相 当し、今回のGRAPE-RDに比べると3分の1以下の電力あたり性能となります。

この世界最高の電力あたり性能を実現した要素となる技術は、以下の通りです。

  1. 超低消費電力を実現する1チップ超並列プロセッサ「 GRAPE-DR プロセッサチップ」の開発。チップ単体で、 200Gflops の性能を 50W の消費電力で実現。(SC2007 で論文発表) (写真2, 3)
  2. GRAPE-DR プロセッサ4チップを搭載し、ホスト計算機と高速・低レイテンシで通信できる GRAPE-DR プロセッサボードの開発。 (写真4)
  3. HPL ベンチマークのコアである行列演算で、理論ピークの 80% 程度と高い効率を実現したこと。
  4. HPL ベンチマークに対して、アクセラレータ向けの新しいアルゴリズムを使う等の最適化を施し、性能を向上させたこと。
  従来にも、GPGPU 等のアクセラレータを利用したシステムでの HPL ベンチマー ク結果は、すでにいくつかありますが、 GPGPU 自体の絶対性能や電力あたり 性能が低いこともあり、ホスト計算機単体性能の2倍程度の性能向上しか実現 できず、電力あたり性能もあまり改善していませんでした。

東大・天文台は、上記の要素技術の開発によって、世界最高の電力あたり性能 を実現し、今年6月の Little Green 500 List で Top 1 にリストされました。

今後の発展

世界一の電力あたり性能は実現しましたが、 GRAPE-DR の性能にはまだ向上の 余地があります。今年度中にさらに 50% 程度の電力あたり性能向上の実現を目 指すとともに、より大規模なシステムの性能測定を行う予定です。このように 次々世代のスーパーコンピュータの課題に取り組み、さらに高い性能を実現し ていくことで、スーパーコンピュータの発展に寄与していきたいと考えていま す。

なお本発表は、文部科学省科学技術振興調整費、「分散共有型研究データ利用基盤の整備」で得られた成果に基づいています。

連絡先

東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 平木敬
Tel:090-6482-9169 / Fax:03-3818-1073 / e-mail:hiraki -at- is.s.u-tokyo.ac.jp
国立天文台理論研究部 教授 牧野淳一郎
Tel:0422-34-3738 / Fax:0422-34-3746 / email:makino -at- cfca.jp
このページの URL:
http://grape.mtk.nao.ac.jp/press/2010-green500.html

関連リンク

資料写真等


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写真1 GRAPE-DR システム


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写真2、3 GRAPE-DR プロセッサチップ


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写真4 GRAPE-DR プロセッサボード

用語解説