天文シミュレーション用計算機 GRAPE-6 増強により再び世界最高速に

プレス・リリース 平成14年3月4日

東京大学は48Tflops (1秒間に48兆回演算)のピーク性能を持つ天文シミュ レーション用計算機 GRAPE-6 を完成しました。これは今月運用を開始する予定である「地球シミュレータ」の40Tflops を上回り、天文シミュレーション専用ではありますが世界最高速の計算機となります。 この成果は、 3月5日から 3 月 6 日まで東京で開催される計算科学国際 シンポジウム で発表されます。

右図は GRAPE による銀河団形成シミュレーションの例、下は 完成した GRAPE-6 です。

東京大学大学院理学系研究科の牧野助教授を中心とする研究グループは、日本学 術振興会・未来開拓学術研究推進事業の一つとして「多粒子系むけ超並列計 算機の開発」プロジェクトを進めてきました。このほど、プロジェクトの主な 目標である粒子系むけ超並列計算機を完成することができました。完成した計 算機は GRAPE-6 と名付けられています。

銀河や星団のシミュレーションでは一つ一つの星を「粒子」と見て計算機の中でその運動を追跡します。 このように 自然現象を「多数の粒子の相互作用」としてモデル化し、そのモデルを高速な 計算機を使ってシミュレーションする粒子シミュレーションの方法は、天文学 のみならず科学・工学の様々な分野で用いられています。その応用は、銀河 や星団のシミュレーションをはじめ、 SPHやEFG 等と呼ばれる方法を使った構造 力学計算、さらには原子一つ一つの運動を追跡する分子動力学法までミクロか らマクロのあらゆるスケールに及びます。

プロジェクトグループでは、プリンストン高等研究所などいくつかの研究機関 と協力して主な応用を天文シミュレーションとする GRAPE-6 の開発を進めて きました。このシステムでは、粒子系シミュレーションのなかでもっとも計算 量の多い粒子間の相互作用計算を専用 LSI で行ないます。今回完成したシス テムでは、31 Gflops の計算速度をもつ専用 LSI を1536 個並列に動作させて 48 Tflops の性能を実現しました。相互作用計算以外の部分は通常のパーソナ ルコンピュータを12台並列に使って処理しています。

現在単一の汎用計算機として世界最高の計算速度を持っているのは地球シミュレータであり、その理論的なピーク計算速度は 40 Tflops です。今 回東京大学が完成させた GRAPE-6 のピーク性能は 48 Tflops であり、地球シミュレータ の 1.2 倍になります。さらに注目するべきことは、 GRAPE-6 の開発総 予算はわずか 5 億円であり、400億といわれる ASCI White の約 1/100 でしかないことです。

GRAPE-6 がこのような優れた性能を極めて低コストで実現できたのは、基本的に は GRAPE-6 が問題に特化した専用計算機であるからです。天文シミュレーショ ンのなかでも、 GRAPE-6 が扱うのは太陽系や銀河のような、多数の天体がおた がいの重力を受けて運動しているようなシステムです。このようなシステム のシミュレーションでは、計算時間のほとんどが重力の計算にかかります。したがっ て、重力の計算だけを速くすれば、計算全体を速くすることができるのです。

東京大学では、上の考えに基づいて 1989 年から一連の GRAPE システムを開 発してきました。 1995 年に完成した GRAPE-4 は世界で初めて 1 Tflops を 超えるピーク性能を持つ計算機となり、1995年、1996年に米国電気電子学会コ ンピューター協会(IEEE Computer Society)からゴードン・ベル賞を受賞して います。また、2000 年には、まだ小規模なプロトタイプであったにもかかわ らず GRAPE-6 が同賞を受賞しました。なお、この 2000 年の賞は GRAPE と同様な アイディアに基づいて理化学研究所の戎崎情報基盤研究部部長のグループが開 発された分子動力学計算向け計算機 MDM との共同受賞になっています。さら に 2001年には 32 Tflops まで完成したマシンが受賞しました。

右に、 GRAPE プロジェクトが 1989年に始まって以来の GRAPE のピーク速度と、代表的なスーパーコンピュータのピーク速度を示します。赤のシンボルが GRAPE であり、青はスーパーコンピュータや並列計算機です。 GRAPE が、はるかに高コストなスーパーコンピュータに比べて同等以上の性能を実現していることがわかります。
今後、 GRAPE-6 は銀河中心核でのブラックホールの形成、宇宙初期の揺らぎからの銀河形成、太陽系での惑星形成など様々な問題に適用され、従来は不可能であった大規模なシミュレーションによって新しい発見をもたらすことが期待されています。 GRAPE-6 を使った研究をする研究グループは日本国内はいうまでもなく、ケンブリッジ大学(英)、プリンストン高等研究所、アメリカ自然史博物館、マサチューセッツ工科大学、ドレクセル大学(米)、マックスプランク研究所(独)、マルセイユ大学等世界中に広がっています。

本件に関する問い合わせ先:


牧野淳一郎
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
Tel 03-5841-4252/4276 Fax 03-5841-7644(学科事務)
Email: makino@astron.s.u-tokyo.ac.jp

または

福重俊幸
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
153-8902 東京都目黒区駒場 3-8-1
Tel 03-5454-6611
Email: fukushig@grape.c.u-tokyo.ac.jp

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