Press release 2000/11/9
ハイ・パフォーマンス・コンピューティングの世界におけるもっとも権威ある 賞の一つであるゴードン・ベル賞を、東京大学の牧野淳一郎(理学系研究科助 教授)、福重俊幸(大学院総合文化研究科助手)古賀正基(同研究科博士課程 1年)が共同で受賞した。
ゴードン・ベル賞は 計算機設計者として著名なゴードン・ベル氏が並列計算 技術の推進のために1987年に創設した賞であり、米国電気電子学会コンピュー ター協会(IEEE Computer Society)によって運営されている。並列計算機を実 用的な科学技術計算に応用し、その年にもっとも優れた性能を出した人々に与 えられる。実効性能、価格性能比、特別部門の三つの部門があり、それぞれ応 募があったものの中から審査で受賞者がきまる。毎年米国で開かれるスーパー コンピューティング国際会議(SC2000)の会場で授賞式および受賞内容の講演が 行なわれている。今回もテキサス州ダラスで開かれたSC2000(11月4日〜10日) で発表され9日に授賞式があった。
受賞した計算は、東大が開発した GRAPE-6 システムによる銀河中心核におけ るブラックホールの運動の多体シミュレーションであり、実効性能比部門で、 1.349 Tflops という値を達成したことに対して与えられた。1 Tflops (テラ フロップス)は、1秒に 1兆回計算をするという速度である。1.349 Tflops は、 最新のパソコンのほぼ一万台に相当する性能である。なお、GRAPE-6 は、日本 学術振興会未来開拓学術研究推進事業「計算科学」部門の「次世代超並列計算 機開発」プロジェクトで開発されたものである。
GRAPE システムは、東京大学が 1989 年から開発している天文シミュレーショ ンのための専用計算機である。 1995 年に完成した GRAPE-4 はすでに 1995年、 1996年にもゴードン・ベル賞を受賞している。また、1999年には GRAPE-5 が 価格性能費部門の賞を受賞した。
一連の GRAPE システムがこのような優れた性能を実現できたのは、基本的に は GRAPE が問題に特化した専用計算機であるからである。天文シミュレーショ ンのなかでも、 GRAPE が扱うのは太陽系や銀河のような、多数の天体がおた がいの重力を受けて運動しているようなシステムである。このようなシステム のシミュレーションでは、計算時間のほとんどが重力の計算にかかる。したがっ て、重力の計算だけを速くすれば、計算全体を速くすることができるのである。
現在の主流であるマイクロプロセッサを多数並列に並べた超並列計算機に比べる と、同じ計算に対して同じ費用でほぼ100倍の性能を達成できる。
なお、今年度の実効性能部門の賞は、東大と理化学研究所の戎崎情報基盤研究 部部長のグループの2つがほぼ同じ性能を達成し、両方が受賞した。理研グルー プは、GRAPE と同様な考え方に基づいてタンパク質等の生体高分子や固体、液 体の性質を分子レベルで直接シミュレーションする分子動力学法のための専用 計算機 MDM を開発した。今回の理研の受賞はMDM による食塩の分子動力学シ ミュレーションに対するものである。実効性能部門の賞を日本が獲得したのは 1996 年以来4年ぶりのことである。
問い合わせ先:
牧野淳一郎 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 Tel 03-5841-4276 Fax 03-5841-7644(学科事務) Email: makino@astron.s.u-tokyo.ac.jp または 福重俊幸 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 153-8902 東京都目黒区駒場 3-8-1 Tel 03-5454-6611 Email: fukushig@grape.c.u-tokyo.ac.jpただし牧野助教授は、SC2000の後共同研究のためプリンストンに滞在中 であり、帰国は19日の予定です。天文学専攻では牧野助教授の帰国までは 必要な場合には天文学専攻長が対応いたします。
岡村定矩(天文学専攻長) 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 Tel 03-5841-4257 Fax 03-5841-7644(学科事務) Email: okamura@astron.s.u-tokyo.ac.jp
GRAPE-6
シミュレーション結果の一例