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4 次世代の次

さて、それでは、次世代の次はあるのだろうか? HIPPARCOS から GAIA は 20 年あり、その間に 100 倍の精度を目指す。これが可能かどうかはまだ分から ないわけだが、出来たとして銀河系全体であり、さらにその 10 倍が出来れば 数 100 kpc、すなわちアンドロメダまで年周視差でいける。これは観測精度が マイクロ秒の程度である。

この領域になると技術的なことだけではすまない問題がいろいろでてくるとい うのは JASMINE の検討ででてきているわけだが、ここではそういった問題は とりあえず解決できたとして、それでどんなサイエンスが出来るか考えてみる。 アンドロメダまで届いても、見えるのは局所銀河群だけである。そういう意味 では、あまり面白くないという気がするかもしれない。もちろん、局所銀河群 全体の運動、その起源がわかることは確実であり、それは銀河形成の理解に極 めて大きな意味がある。しかし、見えるのが局所銀河群一つであるなら、あま り幅広い研究プログラムにはなりえないとも思える。

ここで、高精度アストロメトリでわかることには実は 2 種類あることに注意 しよう。いうまでもないことであるが、一つは年周視差による絶対距離であ り、もう一つは固有運動である。原理的には、これらと同時にわかる天球面上 の位置と、分光観測でわかる視線速度を合わせることで、天体の運動の完全な 情報が得られることになる。

年周視差については、精度を 10 倍にすれば 10 倍遠くが見えるだけだ が、固有運動については必ずしもそうではない。一般に遠くにあるもの、すな わち大きな構造は、より速く動いているからである。

年周視差で観測するということは、ベースラインが 1 AU である、つまり、 10km/s オーダーで 1 年の運動であるということである。固有運動であれば、 衛星の寿命が 10 年あれば 10 倍遠く、速度が 100 倍ならばさらに 100 倍遠 くが観測可能である。つまり、マイクロ秒のアストロメトリでは、数100 km/s のもの、つまりは銀河団のなかでの銀河の運動や、銀河団自体の固有速度をみ るなら、 数100 Mpc までが観測可能になるのである。これは、z にして 0.1 に及ぶものであり、 SDSS の深さと同程度になる(本当???)。

これだけの情報が宇宙の構造形成の理解にどれほど役に立つかは筆者の理解を 大きく超えるものであるが、以下いくつかの例をあげてみよう。

まず、いうまでもないことは、現在形成過程にある大規模構造について、深さ 方向以外の全てである5次元情報が得られることである。このことは、理論、 あるいはシミュレーションで得られた大規模な構造と観測との現在可能である よりもはるかに精密な比較を可能にする。宇宙論パラメータと初期ゆらぎにつ いての情報を同時に高い精度で得ることはそれほど難しくはなくなるであろう。

理論との比較ではなく、直接銀河団までの距離を決めるのにも、速度について は 3 次元全てが得られることから等方的であると仮定して直接距離決定出来 る。つまり、 distance ladder に一切依存しないで距離決定ができることに なる。明るさに依存しないので銀河間吸収や進化効果といった補正ともまった く無縁である。

銀河団自体の形成、進化についても、現在では想像することも困難であるよう な多様な知見が得られるであろう。

基本的には、 HIPPARCOS が銀河系の構造理解に今までなかった視線速度 2 次 元(+近傍では絶対距離)の情報をもたらし、我々の銀河系の理解を新たなもの にしたのと同様な発見が、系外銀河のアストロメトリによってもたらされるは ずである。これは、観測的宇宙論にとっては文字通り新しい次元を開くものな のである。



Jun Makino
平成14年10月4日