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2 20世紀天文学の発展

20 世紀は、その古典的な意味で、「天文学」というよりは天体物理学の時代 であったことは論をまたないであろう。杉本1によれば、 20世紀後半の天文学の特徴は以下のようになる。

すなわち、杉本の言葉を借りるなら

こうして、「全波長天文学」というスローガンは、サブミリメートル電波、重 力波、ニュートリノを除いて、基本的なところは征服した。

ということになる。まあ、こういう観点では可視光・赤外線での天文学は既に 終わったということになってしまって、この小文を書く意味もない。もうちょっ と違う観点から考えてみよう。

20世紀の天文学が「全波長天文学」であったとして、 21 世紀の天文学がなに を目指すべきかということを考える上では、一つの助けになるのは 19 世紀の 天文学はなんであったかを振り返ってみることであろう。

そう対比すると、 19 世紀の「天文学」 astronomy に対するものは 20 世紀 の「天体物理学」 astrophyics である。極めて大雑把にいってしまえば、19 世紀までの天文学は天体力学と位置天文学であり、天体がどこにあり、どのよ うに運動しているかを明らかにすることによって我々の宇宙の成り立ちを知ろ うとするものであったと言えなくもない。これに対して、 astrophysics の基 本的な方法は分光であると言える。つまり、単独の天体からの輻射がどのよう なものかを調べることで、その天体の成り立ちを知り、それから宇宙の成り立 ちにつなげようというものである。

天体物理学が大きく発展したことの重要な意義は、我々が観測し、実証的に理 解できる宇宙の大きさが大きく広がったことである。19世紀始めには天体の運 動を精密に観測できるのは太陽系内だけであった。現在にいたっても、視差か ら直接距離を決定できるのは依然銀河系内、そのなかでも 1kpc 程度のごく近 くにとどまっている。それ以上遠くの距離は、基本的に様々な天体物理学の知 見を利用した distance ladder によっているわけである。



Jun Makino
平成14年10月4日