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1 微分方程式と数値解の安定性

今日は、「安定性」について考える。数値解について考えるまえに、まず微分 方程式の安定性について考えておこう。というのは、元の微分方程式が安定で なければ、数値解が安定とか不安定とかいってもなにが不安定なのか良くわか らないからである。考える微分方程式はとりあえず一般的な形

としておく。(これまで、時間発展ということで独立変数に t を使って いたが、ちょっと表記が混乱しているところもあるのでここからは独立変数を x, 従属変数を とする。)

1.1 定常解の局所的安定性

さて、安定性というものを定義しないといけない。そのために、まず、「定常 解の安定性」というものを考えることにする。定常解とは、 要するにある というものがあって、

を満たすもののことである。まあ、 x が微分方程式の右辺に入っていると、 特別な条件の下でなければ定常解はないので、以下

の形、つまり右辺に x が入らないものを考える。これを自律型という。こ の時はもちろん定常解の満たす方程式は

ということになる。

さて、この解が局所的に安定かどうかというのは、以下のような意味であると 考えられるであろう。

「なんらかの理由(外乱とか)で、定常解から少し離れたところに解がいった 時に、もとの解にもどる」ということをさして安定であるという。

ちょっと図に例を示してみよう。左の図のように、盛り上がったところの一番 上にボールかなにかをおいたら、ぴったり頂上におけばそれは止まっている。 つまり、頂上は定常解である。 しかし、すこしでも頂上、すなわち定常解からずれたらそのままころげおちて しまう。これは不安定な定常解ということになろう。

これにたいし、右の図のように谷底ならば、すこしずれたらもとのところの戻 ろうとする。さらに、摩擦や空気抵抗があるから、そのうちにもとのところに止 まる。これは安定解ということになる。

仮に、厳密に水平な面が広がっていたとすれば、少し動かすと動かしたところ でそのまま止まっていることになるであろう。これは中立安定状態ということ になる。

上の説明は直観的ではあるが、ちょっと怪しいところがある。この場合どんな 方程式を考えているのであろうか?例えば以下のような方程式ということになろう:

ここで、 は地面からの力であり、 第二項は抵抗による力である。 抵抗は速度に比例するということにしておく。これはy の2変数 の方程式である。

さて、これの定常解(この場合平衡解という言葉をつかうことのほうが多い) の回りで、解がどう振舞うかを調べてみることにする。平衡解は

である。今、

とおいて元の微分方程式を書き直す。この時、 f

と近似出来ることに注意すると、

あるいは、行列形式なら

ということになる。これはもちろん以下の形の解を持つ

ここで、 は行列Aの固有値である(今、縮退し ている場合とかはちょっと置いておく。式は特別になるが振舞いはたいして変 わらない)。 固有方程式は

の形をとる。ここで、 としておく(抵抗が速度 と逆方向に働く)とすれば、k の値によって解の振舞いは5つの領域に分か れる。

固有値が実数か複素数かの違いは、解が振動的になるかどうかである。

一般の微分方程式でも、定常解があればその回りで線形化することで同様な議 論ができることになる。安定であるということの条件は、全ての固有値の実部 が負であるということである。

なお、念のため注意しておくが、一般の場合には、複素固有値で実部が正とい うばあいもありえる。上の例ではそれが起きなかったのは、 という条件をつけたからである。これを外す(負性抵抗)と、k<0 の時に振 動しながら平衡値から遠ざかっていく解が現れる(振動的発散)。

1.2 特別な場合---散逸のない系

さて、上の方程式で としたものを考えると、これは k<0で 固有値が純虚数になる(なら非負の実数)固有値が純虚数の時には解 は振幅一定の単振動になり、初期に与えた摂動がそのまま残る。

このような系は安定平衡点を持たないが、実用上は特別に重要である。という のは、理想化された古典力学系(ハミルトン系)はすべてこのような、安定平 衡点を持たない系であるからである。この場合には安定性の意味が変わる。こ れについては後で扱うことにしたい。

1.3 非線形領域での解

ハミルトン系については別に扱うとして、安定平衡点を持たないような非線形 の連立常微分方程式系はどのように振舞うのであろうか?非常に大雑把にいう と、2つのケースに分かれる。

1.3.1 極限周期軌道を持つ場合

van der Pol 方程式などが良い例であろう。平衡点はあり、局所的には不安定 である。が、これは局所的に負性抵抗があることによっていて、大域的には抵 抗は正になっている。従って、平衡点の近くでは回りながら遠ざかり、遠くで は回るのは同じだが逆に平衡点に近付く。どこか途中に、それ以上平衡点から 遠ざかりも近付きもしない極限解(極限周期軌道、 limit cycle)があり、す べての解がいつかはそこにいく。位相空間が2次元(つまりは、2変数)の場合 は、運動が有界で定常解を持たなければかならず極限周期軌道を持つというこ とが知られている。

多変数の場合には2重周期とかになって単純な一本 の軌道ではないが、とにかく可能な位相空間の、次元が下がった部分空間のな かだけを運動する。

1.3.2 カオス的な場合

3変数以上の場合でないと起こらないが、上のようなリミットサイクルを持た ず、なんだかよくわからない動きをする。解が動く空間の次元がもとの可能な 範囲に比べて下がらない(が、実際にもとの可能は範囲を埋めつくすかどうか というのは大問題で、まだ非常に特別ないくつかのケースについてしか分かっ ていない)。

1.3.3 リヤプノフ指数

非線形方程式の場合、上のような周期軌道についてそれが安定かどうかという ことを問題にすることができる。つまり、少し軌道からそらしてやって、だん だんもとの軌道にもどれば安定、はなれていけば不安定ということになるので ある。これはリヤプノフ指数というものを考えることで判定できる。これにつ いては詳しくは触れないが、要するに軌道にそって線形化して、その解の固有 値を調べるということに相当する。

系がカオス的になるためには最大リヤプノフ指数が正である必要がある。これ が十分条件かどうかはわかっていない。



Jun Makino
Mon Jun 7 10:12:06 JST 1999