8. 文献データベースの利用(2009/6/18)
25年くらい前には、自分のやっていることに関係する論文を探す、というのは
簡単ではなかった。新しいテーマを始めよう、という時には、
Astronomy and Astrophysics Abstracts という電話帳みたいなもので、関係ありそう
な論文を過去何年にも渡って探す、とかするしかなかった。
しかし、ADS と arXiv.org によって、少なくとも物理・天文学の分野では
この状況は根本的に変わり、あらゆる論文が Web 上で検索でき、また
雑誌は有料であっても著者が arXiv.org に登録していれば無料でダウンロー
ドして読めるようになった。
ADS だと論文に、
-
その中で引用されている論文
-
その論文を引用している論文
のリストがついてくるので、その辺を辿っていくと、1つの論文から、その分
野でどんなことが研究されているかが大体わかる。
ADS で色々な意味で重要なのは、上の
のリスト、というより論文の数である。これは、専門用語でいうと citation
count ないし citation index (引用度) というもので、極めて大雑把にいうと、
その論文の重要性を数値として表しているといえなくもない。もちろん、リニ
アに対応するわけではないが、非常に重要な論文であり、そのことが多くの研
究者から認識されていれば、通常はその論文は多くの人が引用するので引用度
は高くなるはずである。
まあ、そう単純ではない、ということを議論した論文は一杯あるが、無関係で
はない、ということである。なので、大雑把には、引用度が高い論文は重要な
ものである可能性が高い。
これを読んでいる読者が大学院生や、あるいは学部生だとしたら、 ADS のよ
うなデータベースを使ってできる極めて重要なことは、指導教員、あるいはそ
の候補の人がどういう研究者かをある程度知ることである。
人の名前をいれて検索すれば、その人がどういう論文を書いたかが概ね全部で
る。もちろん、イニシャルが同じ人のがまざっているかもしれない。まず重要
なことは、最近数年の間に査読付き雑誌にちゃんと論文を書いているかどうか
である。これは、 検索ページの下のほうにある、FILTERS のところの、
Select References From: で All refereed articles をチェックする。
これで過去数年間に論文がない人の場合には、今後数年間にも論文がない可能
性が高い。言い換えると、その人のところで修士論文や博士論文のためにやる
研究も、論文にならない可能性が高い、ということである。
もちろん、なんらかの事情でたまたま数年間論文がなかったとか、そもそも天
文の研究者でないとか、色々な理由で ADS では論文がでてこない、というこ
ともあるので、そうでないかどうかは確認が必要である。
さて、ちゃんと論文を書いている人である、とわかったら、次はその中身であ
る。これは、
-
自分の興味に近いかどうか
-
まともな研究かどうか
-
さらには、良い研究かどうか
といったことである。自分の興味と近くかどうかは中身をみないとわからない。
まともな研究かどうかは、例えば上の citation count で、ある程度の数がで
ていれば普通に業界の中で評価されている論文であることがわかる。出版から
10年たっても全く引用がないとかいった論文があってもそれはまあそういうこ
ともあるが、ある人の論文が全てそうだったりするとそれはちょっと問題であ
る可能性もある。
まあ、もちろん、沢山論文を書いていて、それが沢山引用もされていても、重
要かどうかはまた違う話なので、だからどうというわけではない。が、全く論
文を書いていない、あるいは全く引用されていない、というのは、研究者とし
て存在していないのと同じである。
ある人の全論文について、それらがどれくらい引用されているかを見るには、
FILTERS のさらに下にある SORTING のオプションで、 citation count, ある
いは normalized citation count をチェックする。後者は、 citation count
を著者数で割ったものである。
装置開発だけしていて観測結果とかの論文はない、という人もいるかもしれな
いが、装置開発として新しいことをしているならそれ自体が論文になっている
はずであり、そういう論文もない、というのは何か理由がある。