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95. x86 プロセッサの将来と HPC 用プロセッサ (2011/2/20)

2年くらい前に x86 プロセッサの将来 95 というのを書いたわけですが、事態は大体書いた通りに推移してるかな、 と思います。

現状が2年前に私が書いたのと若干違うのは、Atom のネットブックよりもさら に CPU パワーとしては貧弱な iPad や Android のスレート PC が普及するき ざしをみせていることです。重い Windows というハンディキャップがなく、ま た Intel の統合 GPU のようなアレなものを使う必要もないのでグラフィック ス性能は実質的にはずっと高いこれらのシステムは、少なくとも性能的には大 抵のことに十分な能力をもっています。

これは要するに、 x86 より性能・電力消費が少ないプロセッサが必要だった携 帯電話マーケットを支配してきた ARM プロセッサがもうちょっと上のPC 的な 用途まで十分な性能を持つようになってきた、ということです。つまり、Atom でそちら側への進出を狙った Intel の戦略は完全な失敗に終わった、というこ とでもあります。

これは、メインフレーム、ミニコンピュータ、ワークステーション、Wintel PC、と移り変わってきた計算機業界における主役が、ARM ベースのスマー トフォン、スレートPC といったものに移り変わるということでしょうか? iPad もスマートフォンも自分では使ってないのであまり実感がないですが、 まあ、基本的にはすでにそうなってるのではないかと思います。

で、これがマイクロプロセッサの進化にどう影響するかというと、サーバー系 では ARM が x86 にとってかわるといったことは起こるにしてもまだだいぶ先 だと思います。サーバーマーケット自体も金額的には結構大きいのでしばらく はあまり影響はないかもしれません。まあ、RISC プロセッサから x86 プロセッ サへの交代も、90年代に結構急速に起こったわけで、同じようなことが起きな いとはいえません。プロセッサアーキテクチャがなんであろうと、サーバー向 けのアプリケーションの性能は結局主記憶やストレージの速度でリミットされ るわけですから、主記憶やストレージのバンド幅当りの値段や電力消費が問題 になるからです。現在のところアーキテクチャが単純な ARM は x86 に比べて コア当りのダイ面積や電力消費では優位にあります。性能が低くてもそれはあ まり問題にならないとすれば、急速に x86 にとってかわっても不思議ではあり ません。

さて、そうなると HPC マーケットはどうなるか?ということです。Intel は出 荷にこぎつけなかった Larrabee の後継をまだ開発していますが、HPC マーケッ トだけが対象では成り立たないですし Intel 製品がグラフィックスマーケット で商売になるはずはないので長期的な開発継続は(Xeon を止めにしてこっちだ けにするとかない限り)困難でしょう。NVIDIA は ARM+GPU の統合プロセッサの 計画をもっていて、これは一見よさげにみえます。基本的は同一アーキテクチャ でスマートフォンから HPC までカバーするからです。NVIDIAの問題はもちろん、 現在もっている GPU コアが Fermi ベースで電力・ダイサイズ的にアレだとい うことと、それを改善する方向が見えていないことです。個人的には Bill Dally 先生では厳しいのではないかと思います。とはいえ、そこそこのものは でてくるのでしょう。

まあ、そうするとこれから数年間は x86 の発展、Intel MIC、 NVIDIA ARM+GPU とアーキテクチャやトランジスタ効率・電力効率的にはなんだかなあ 感があるものが HPC マーケットで戦うということになります。とはいえ、この 辺のプロセッサが、今後の(というか本当は何年も前から)最大の問題であるネッ トワークレイテンシについて何かがんばってくれる、ということもそんなに期 待できないわけで、HPC 用プロセッサとしてはあまり面白い話にはなりません。

ということは、逆にいえばなにか新しいものを作る機会ではあるわけですが、 日本でなんかいっても 10年前には新しいアイディアであったかもしれないアク セラレータにやっと予算がつくくらいかなあ、、、というような気もします。 GRAPE-DR の最初の構想(といっても実際に作ったものとほとんど同じですが)は 2002 年、最初に予算要求したのが2003年度の CREST でした。
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