62. 計算基礎科学シンポジウム (2008/6/16)
計算基礎科学シンポジウ ムというものが東京駅近くのコンファレンスホールであり、私も発起人
の1人でもありなんかパネルで話せ、といわれたのでいってきました。
位置付けがはっきりしない研究会なのですが、要するに素粒子とか原子核といっ
た基礎物理で計算機を使うところに京速計算機とかちゃんと使わせろ、という
ための圧力団体の発足式で、宇宙物理とかもおまけにはいってます、という感
じです。
このような圧力団体というのはアカデミックでは意外に重要なもので、このよ
うな活動によって、多くの研究者が資源を必要としているとかこれによって成
果がでるとかそういう話を作らないと文部科学省は動かない、ということなん
だそうです。
こういう活動はもちろん重要なのですが、個人的にはあまり熱心になれません。
この文章の前のほうに書いてあることから想像されると思いますが、私は京速
計算機にそれほど魅力を感じていないからです。このことはすでに文部科学省
主催のシンポジウム等でもいったことですが、 1100億もかけて 10Pflops では、
その中で天文学の研究に使える分が、 GRAPE-DR とか以前に天文台の次期スパ
コンの能力に比べてどうか?というのが問題です。
計算能力に関する限り、 3-4年後に 1000億 10ペタフロップスというのは
ちょっとありえないほど高価です。これは 1Tflops 1000万円ですが、現在の
Cray XT4 の日本での価格で 1Tflops 3000万以下だからです。3-4年後なら
性能当りの価格は 1/5 以下になるわけですから、倍程度は違うことになりま
す。また、 Roadrunner の値段は 100-200億といわれており、これは既に
1Tflops 1000万円程度を実現しています。
もちろん、既に何度も書いている通り、計算機の値段は演算能力よりは
メモリバンド幅とインターコネクト、それから開発コストで決まるわけですが、
そのことを考えた時に演算性能に対してメモリバンド幅を高く維持するという
方針に、「実行効率が高いように見える」ということ以外のどのような意義が
あるのか、というのは私にはよくわからないのです。
と、京速のことはさておいて、はこの項の話が進まないわけですが、素粒子と
か原子核の分野では京速はどうか?というのが1つの問題でしょう。 KEK は
BG/L を導入しており、筑波大学はもちろん PACS/CS を擁する日本における数
値計算むけ計算機開発の中心というべき場所なわけです。
まあ、QCD 専用計算機開発の今後はどうかというのはすでに
22 に書いた通りで、やればできるのですが
チップへの初期投資をどうするか、と見返りは十分にあるか、という
問題になってきている面もあります。しかし、 QCD 専用計算機の果たしてき
た歴史的な意義を考えると、ノウハウと実績のあるグループが今後も開発を続
ける、というのは必要なことであり、少なくともベクトル計算機に国家予算を
使うならその 1/10 くらいは使ってもよいのではないかと思います。
が、問題は、 QCD のグループには独自開発の意志がなさそうに見えることで
しょう。これは別に日本だけでなく、 APE のグループもコロンビアのグルー
プも現在のところ独自開発の計画はもっていません。新たに LSI チップを開
発するのは人手も予算も大変なので、というのはありますが、そもそもやりた
いといってなければお金がふってくることもないので、これでいいのかな?と
いう気もします。