集英社新書から「スーパーコンピューターを 20万円で創る」という本がでま
した。これは、 GRAPE-1, 2 の開発の中心であった伊藤が、当時のいきさつ
その他を彼の視点から書いたものです。彼の視点、といっても、この本を
みていただければわかるように伊藤は漫画「栄光なき天才たち」「Brains」
の原作者でもあり、単純に本人の手記、というものではなくちゃんとした
読みものに仕上っています。
まあ、その、私としては、自分のことが「コンピュータの天才」とか「早熟の
天才」とか「神童」とか書いてあると、その、わかりやすくて面白い話にする
ためにはそういうふうなことにするのかもしれないけどなんか違う、という気
もします。
もうひとつ、ちょっとというかこれはかなり違うという気がするところは、戎
崎の貢献が過小評価されている、ということです。伊藤と戎崎の間の関係は非
常に円滑、というわけではなかったことは本を見ればわかる通りで、そのため
に直接の接触が少なかったためかもしれません。伊藤の2年後輩で GRAPE-1A
の開発をした福重によると、福重が学部4年になって研究室に配属された時、
伊藤は相変わらず夕方まで大学にこない、というサイクルを保っていたそうで
す。
本の中で、楕円銀河の形成の謎を解明、みたいな話がでてきます。これは
私がやったみたいに書いてありますが、確かに計算したのは私ですがそういう
問題をやろう、というテーマ設定は戎崎がしたもので、そのための文献や他の
人の研究のサーベイといったことも戎崎が中心になってやっています。
GRAPE-2 を使った研究でも、戎崎が中心的な役割を果たしていることは
既に 33 で書いた通りです。
なお、「スーパーコンピューターを 20万円で創る」というタイトルは詐欺で
人件費がはいってないじゃん、というようなコメントもネット上にありますが、
このタイトルは伊藤の望んだものではなく出版社側の強い希望によるものであ
る、ということはここに書いておきたい気がします。