30. 川内原発再稼働を前に(2015/7/29)
川内原発1号機の再稼働が来月上旬に迫っています。
ここで、改めて、再稼働の前提になっているはずの、「川内原発は安全である」
という論理にはどのような問題があるか、を簡単にまとめておこうと思います。
(というか某方面からそれくらいやれよという何かが。お前やれという気もし
ないわけではないんですが、まあ)
細かくみていくと問題は無限に沢山あるのですが、原理的な問題は以下の4点
であると思います。
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安全審査で想定されている自然災害、つまり地震、火山噴火、津波等
の発生確率の見積もりにおける過小評価の問題
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現在の規制基準で要求している事故対策が全く意味をなしていないという問題
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実際に事故が起こった時の対応の指針(原子力災害対策指針)が、
福島の事故の教訓を受けて改悪された、全く論外なものになっているという問題
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事故後の避難その他に対する補償や避難指示に関する指針も、
高度に汚染された地域にそのまま住民を住まわせる、ということが
基本方針となっているという問題
この4点についてきちんと議論すると膨大な文章になってしまうので、
ここでは 1 についてのみ述べます。2, 3 については「科学」2014年の
3月号、4月号でそれぞれ議論したので、必要な方はそちらを御覧下さい。
というわけで自然災害の過小評価についてです。これも「科学」6月号と8月
号で議論しましたので、その議論のポイントを以下にまとめます。
例えば地震に対する原発の安全性確保の論理は、
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「基準地震動」と呼ばれる、地震の強さ(最大加速度)を想定する。これは、
1万年から10万年に1度しか起こらないようなものということになっている。
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この「基準地震動」以下では原発の重大な事故につながることがないよう
に設計や、その後の安全対策をする。
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「基準地震動」以上では重大な事故(過酷事故とかシビアアクシデントとか
いうもの)が起きないことを保証はしないが、その場合でも大量の放射性物
質が放出されるようなことがないように十分な対策をとる。
というものです。「基準地震動」を超えた時には、色々なところが壊れていて、
その時にうまく炉心冷却装置が働いて、数日にわたって冷却をつづけることが
できれば大事故にならないかもしれない、という程度の話なので、
これに頼ることができないのはほぼ自明です。
「基準地震動」自体がめった起こらないものである必要があります。
ところが、実際には、この10年間で
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2005年8月 宮城県沖地震 女川原発 (この後で基準地震動を 375ガルから か
ら 580ガルに変更)
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2007年3月 能登半島地震 志賀原発 (旧基準の 490を超え、新基準の 600は超えていない)
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2007年7月 新潟県中越沖地震 柏崎刈羽原発。基準地震動の倍近い
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2011年3月 東北地方太平洋沖地震 女川原発、福島第一原発 基準地震動をやや上回る地震動
と、4回にわたって基準地震動近く、あるいははるかに超える地震が発生して
います。川内原発では 3.11 以前には 540ガルだった基準地震動を620に気休
め程度に引き上げることで、原子力規制委員会の規制基準への適合性審査をパ
スしています。
しかし、国内20箇所程度の原発サイトで、わずか10年のあいだに数回基準地震
動程度、ないしはそれを超える地震が起きているわけですから、日本の原発全
体としてみると基準地震動が「1万-10万年程度に1度」起こる程度の地震になっ
ていないことは明らかです。実際、起こった回数を200年に2回と数えるとして、
1万年に1度しか起こらないはずのことが200年に2回以上起こる確率は 1/5000
になります。4回だと1億分の1くらいです。
このことがなにを意味しているかというと、少なくとも日本の原発全体として
みると、「基準地震動」は全く過小評価になっていて、
「1万-10万年程度に1度」程度ではなく100年に1度程度起こる地震になってい
る、ということです。
これが裁判になると、裁判所から
ウ 日本の原子力発電所においては、過去10年間でその当時の基準地震動
を超過した地震動が四つ(5ケース)発生していることが認められるが、新規
制基準においては、これらの基準地震動超過地震が生じた原因とされる地域
的な特性を基準地震動の策定に当たって考慮できるようにその手法が高度化
されているから、これらの基準地震動超過地震の存在が新規制基準の不合理
性を直ちに基礎付けるものではない。
つまり、他の原発で地震が起きたからといって川内原発でも起こるとはいえな
い、というトンデモ論理がでてきてしまうわけです。もちろん、他の原発でこ
こ10年のあいだに起こった地震を考慮した、からといって
今後1万年に起こるかもしれない地震を考慮できたことにはなっていません。
地震のマグニチュードと発生確率に関する経験則(グーテンベルク・リヒター
則)からは、おそらく、1万年に1度の地震の最大加速度は、100年に1度の地震
の10倍程度になるといえます。つまり、基準地震動は、
540から 620 に 15パーセント増やす、といった姑息な変更ではなく、
以前の基準の「10倍」にしなければ基準地震動として意味があるものになって
いないのです。
では、何故、実際に必要であることはほぼ明らかな「10倍」にする変更ではな
く、どこからみても気休めな15パーセントといった変更がなされ、それが
原子力規制委員会の審査をパスしたりするのでしょうか?
これは結局、「容易に低コストで対応できる範囲の変更しかしない」という、
結論ありきの論理になっているからです。ほぼ考えるまでもないことですが、
仮に基準地震動を10倍にしたら、規制基準をパスできる原発は日本に存在しま
せんし、どうすればパスする原発を設計できるか、ということ自体が大問題で
しょう。そういうことはしない、というふうに、どこかで論理がゆがんでいる
わけです。
結局、この、「容易に低コストで対応できる範囲のことしかしない」という方
針が、事故対策の全ての面で貫かれている、というのが、 3.11 の事故前と変
わらない原発に関する現実です。このため、現状での再稼働は、また 10-20年
のうちに次の大事故がおき、それに対する適切な対応策はとられていないので
福島第一と同じようなことになり(たまたま運良く大惨事にならないかもしれ
ないし、福島第一以上に大変なことになるかもしれない)、住民の避難はなさ
れず、被害の補償もされない、というふうになる、ということを意味していま
す。