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18. 銚子ヤリイカ (2012/4/8)

我が家の近くの某デパ地下で買った千葉銚子産ヤリイカの測定結果を 図 84 に示します。 これは買ってきたものをそのまま測定しており、内臓をとるとかいった処理は 一切していません。調理前にわたをとると放射性物質が減る可能性はあります。

Figure 84: 千葉銚子産ヤリイカ。重量133グラム、測定は11時間。結果は24時間に正規化。バックグラウ ンドは180時間測定。

1.5MeV のところで見ると3σレベルでなにかでていますが、セシウムかどうか わかりません。いくつかの機関による測定でイカは銀を生物濃縮すること、 このため Ag-110m が検出されることが知られているからです。 WINEPブログ に測定データと詳しい解説があります。また、 食品中の放射性銀について教えて下さい にも詳しい解説があります。

JAEAの資料に よると、 Ag-110m の主要なガンマ線は以下のようになってます。

  エネルギー(keV)   割合(%)
  658               94
  677               11
  687               6.4
  706               16
  818               7.3
  885               73
  937               34
  1384              25
  1505              14
合計すると 200% をだいぶ超えてますが、 Cs-134 と同様に色々出るものな のだと思います。現在の私の自宅の環境で、この程度のカウント数では Ag と Cs の区別はつけられません。

というわけで定量も困難なのですが、カウントからの換算が Cs-134 と同程度 とすると 10-15Bq/kg というところです。昨年6月の福島沖で採取した イカで 30Bq/kg 程度だったのに比べると、千葉と遠いわりに は少なくない量になっています。なお、イカのカリウムはあまり多くなく、 今回のカウント値への影響は20カウント程度で十分小さいようです。

Ag-110m の預託実効線量係数は 2.8E-6[mSv/Bq] となっていて Cs よりだいぶ 小さいのであまり害はない、と資料にはありますが、東北大調査で 福島の牛で肝臓に Ag-110m が蓄積しているとわかったという 報道 もあり、内部被曝についてちゃんと評価されているかどうかは 不明です。というか、内部被曝については基本的にモデル計算でしかなく、 検証されているものではないわけです。モデルの仮定が正しくなけれ ば全く間違った結果を出すことはありえます。

(2012/4/8 当初公開後追記)

ちょっと説明不足なので追記。現在の ICRP のモデルでも肝臓への濃縮等は 考慮されています。但し、実験的な根拠、精度がそれほどはっきりしたものではない、 ということです。

全く機械的に考えると、 1Bq のAg-110m は全寿命の間に 1e-5J のエネルギー を出す計算で、体重 60kg の人が食べて全部吸収したとすると 1.6e-7J/kg = 1.6E-4mSv となって ICRP 的係数は2桁小さくなっています。これは、経口吸 収では 90% はそのまま排泄されるとか吸収されたうちの90%は比較的速く排出 されるとかいったモデルがはいっているわけです。 銀は体内で銅と近い振る舞いをするようで、従って銅の摂取量等によってこの 辺の数字は変わる可能性はあると思われます。

(2012/4/8 当初公開後追記終わり)

銀は動物の体内で銅と似た振る舞いをするということで、ヘモシアニンを 持つ昆虫、カニ、エビ等の節足動物や貝、イカ・タコ等で生物濃縮が起こると 考えられます。また、これらの生物を捕食する動物にも蓄積している 可能性があります。なお、NaI 等でのシンチレータではそういうわけで Cs と Ag の区別は困難なので、一緒くたに測定されている可能性はあります。 Ge での測定では区別できるわけですが、定量できた Ag の値が発表されてい るとは限らないようです。

当面、カニ、エビ、貝、イカ・タコ等は産地に気を つけたほうがよさそうです。Ag-110m の半減期は 250日なので、まあ数年すれ ばかなり減ります。もちろん、 Ag-110m はガンマ線を出すので比較的容易に 測定できますが、ベータ線しかださないストロンチウムについては 海産物の汚染は相変わらず良くわからないわけですが、、、
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