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11. TC100S! (2012/2/3 )

先日筑波に会議でいった時に野尻さんに300Bq/kg 程度と思われるシイタケを 差し上げてきて、それを野尻さんが TC100S で測定した結果をみたところ こちらで TA100U で測定した結果に比べて10倍程度のカウントレートになって いたので、これは TA100U でやっていてもしょうがないと諦めてTC100Sを導入 しました。

Figure 72: 群馬県産原木しいたけ。TA100U で測定時間は8万秒、結果は24時間に正規化。 100g程度のサンプルで 100Bq/kg 程度の汚染のもの。

Figure 73: 同じシイタケをTC100S で測定したもの。測定時間は12時間、結果は24時間に正規化。

7273 に TA100U と TC100S で同じシイタケを測定した結果を示します。0.8MeV までの累積カウン トが120程度に対して1100とほぼ10倍になっていて、その結果、下の青い線で示 した1σの誤差も3倍になっていますが相対測定精度はほぼ3倍に向上しているこ とがわかります。シイタケは100gなので10Bq 程度しかセシウムはないはずです
  から、TC100S で10-20時間の測定では3σ検出レベルはこの 1/3、3Bq 程度です。
300g程度のサンプルの場合、10Bq/kg が検出可能ということに理論上はなりま す。実際には長時間での測定の温度安定性等の問題が見えるかもしれませんが、 高価な食品検査装置レベルの感度を実現できなくはない、ということです。

個人での測定では、例えば 10Bq/g 程度の測定で10σとかいった高い定量精度 は必要ありません。単に検出されたものは食べなければいいからです。本当の 値が 7 でも 13 でも、10近くあるものは嫌、と思うならさして違いはありま せん。その意味では、3σレベルが 10Bq/kg というのは悪くありません。

この辺は、499Bq/kg か 501Bq/kg かを問題にしないといけないかもしれない 公的な測定とは要求精度が全く違うわけで、公的測定が大変だからといって 個人で測定できないわけではありません。

まあその、20万円は普通に個人が買うには高いのですが、、、食品等の測定に 重要な 300keV以上での感度だけが必要なら、検出器部分は本来は安価にでき るはずなのでそのような専用機的なものの開発が望まれるところです。

11.1. おさかなとやさしお

汚染が低いはずものはどんなふうに見えるのかテスト、 ということで、家の近くではない某スーパーで購入した千葉産丸干しイワシを 測定してみた結果を図 74 に示します。

Figure 74: 千葉県産丸干しイワシ200g を22時間測定したもの。バックグラウンドは 水道水の34時間積算。カウント数は24時間に正規化。

0.8MeV のところで160カウント、上の100Bq/kg 程度のはずのシイタケ の1/6 ですが、重量が倍あるので濃度としては 1/12、 8Bq/kg 程度、と いうことになります。但し、この数字には2つ問題があります。

一つは、1σエラーが 80カウント程度なので、誤差は 3σをとると 240 となっ て実際のカウントである 160 より大きく、有意な検出とはいいがたいことで す。まあ、3σは 99.7% で、2σでも 95% ですから偶然で2σになることはそ んなにない「はず」ですが、実際には起こるものです。

もうひとつは、K40 の寄与です。 10Bq/kg を切る程度になるとK40 は無視で きません。

Figure 75: やさしお180g 1 パックを約2時間測定した結果。カウントは24時間に正規化。

75 にやさしお1パックの測定結果を示します。1パックは54 グラムのカリウムを含むはずですから、1.5MeV までの全カウントで1グラムあ たり122カウント、0.8MeV だと70カウントあることになります。

ここ のデータでは、丸干しイワシは100gあたり0.47g のカリウムを含むとの ことなので、これによるカウントは 0.8MeVまでで66カウントになり、セシウムの 寄与といえるのは 160カウントのうち約 100 カウント、ノイズに対して 1.3σレベルとなって有意とはとても言えない、ということがわかります。 無理に数字を書くと、 というところです。

なお、誤差については、もうひとつ、TC100S の安定性の問題があります。おそ らく最も大きな問題は温度依存性で、温度が高いと若干感度があがるようです。 バックグラウンドに対して 1/20 程度のものを測定しようとしているので、感 度が 1-2% 変わると結果がほぼ無意味になってしまいます。温度変化の補正は 面倒なので、なるべく温度変化が少ないところで測定することが望ましいです。 今のところ私の環境は南向きの窓際で、温度変化という意味では最低の場所になっ ています。

11.2. 福島県産林檎3個目

12月に買った福島県産林檎ですが、1つ残ってたのを測定してみました。

結果を図 76 に示します。

Figure 76: 福島県産林檎測定結果。6000秒測定。

2時間弱の測定ですが、3σレベルで有意になったのでとりあえずこれで打ち切っ ています。この程度になると、温度依存もカリウムも誤差の要因にはなりませ ん(林檎にはカリウムは少ないです)。

上のシイタケの結果が100Bq/kg、100グラムで 1000カウントとすると、 600カウントだと 60Bq、林檎は300グラムあったので 20Bq/kg と いうことに計算上はなりますが、かなり縦に長くなって いて有効な部分が少ないことを適当に考慮すると30 Bq/kg 程度ではないかと思 います。1σの誤差が10Bq/kg 程度です。つまり、これ1つ食べると 10Bq とい うことです。

以前に TA100U で測定したのとほぼ同じ数字ですが、1/10 の時間でできてい ます。このレベルなら容易に測定できます。もっとも、そんなレベルのものは 殆ど出回っていないと思いたいわけですが。
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