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4. TA100 による食品中セシウム検出その2 (2011/9/11)

長くなったのでファイル切換えます。前回の実験で、やはりなんらかの遮蔽が ないと、という気分になったわけですが、鉛の遮蔽とかは個人宅で置きたいも のではありません。

遮蔽の原理を考えると、コンプトン散乱の光学的厚さをかせぐ、というだけの 話で、体積を小さくしようと思ったら比重が大きいものがよいわけですがかさ ばるのを気にしなければなんでもかまいません。とはいえ、カリウムが多くて 遮蔽の用をなさないとかではむなしいわけです。

そういうわけで、例えばカリウムの少ない水道水とか軟水をいれた容器とかが 望ましいわけですが、買ってくるのは重いので私の家に無限に沢山あるもの、 すなわち本と雑誌でどうなるかやってみました。A4 判型の雑誌を 2x2 に並べ て15cm くらいつみあげ、さらにTA100 が入るくらいの隙間をあけて15cm くら いさらにつみ上げたもので上はあいてます。まあ、上があいていても立体角と してはかなり少ないのでそれなりの効果はあるはずです。

Figure 32: 遮蔽実験。なにもなし、自宅リビング床置。

Figure 33: 遮蔽実験。雑誌と本を積みあげた中の隙間。

結果は図の通りで、ほぼ半分になります。かなりふらつきが大きくなっていて、 長時間積分しないと定量的にはなんとも言えないのですが、効果はあるようで す。スペクトルもとりたいところですが、今日は移動なのでとりあえずここま で。今日の話のポイントは、測定のための遮蔽は工夫次第でお金かけなくても ある程度はできる可能性がある、ということです。鉛の遮蔽が必須、というわ けではありません。

というわけで、とりあえず遮蔽した状態での8時間測定結果を以下に。

Figure 34: 東京室内。色々遮蔽。エネルギーレンジ 0.375-0.75MeV 8時間測定

Figure 35: 東京室内。色々遮蔽。エネルギーレンジ 0.75-1.125MeV 8時間測定

Figure 36: 東京室内。色々遮蔽。エネルギーレンジ 1.125-1.5MeV 8時間測定

神戸6時間に比べるとみた目半分程度になっていることがわかります。

Figure 37: 東京室内。強化遮蔽。エネルギーレンジ 0-0.375MeV 6時間測定

Figure 38: 東京室内。強化遮蔽。エネルギーレンジ 0.375-0.75MeV 6時間測定

Figure 39: 東京室内。強化遮蔽。エネルギーレンジ 0.75-1.12MeV 6時間測定

Figure 40: 東京室内。強化遮蔽。エネルギーレンジ 1.12-1.55MeV 6時間測定

某所で測定(証明書付きとかではない)した某土壌サンプルの測定結果を以下に

 サンプル Cs量 134  137
 W            4800 5800
 X            1500 1700
 Y             340  420
容器サイズは65mφ x 18mm H 程度で、比較的薄い容器なのでカウントを稼ぐ には不利です。10cm くらいあれば計算上は最大5倍程度のカウントにできます。

Figure 41: サンプルW土壌。エネルギーレンジ 0-0.375MeV 6時間40分測定

Figure 42: サンプルW土壌。エネルギーレンジ 0.375-0.75MeV 6時間40分測定

Figure 43: サンプルW土壌。エネルギーレンジ 0.75-1.125MeV 6時間40分測定

Figure 44: サンプルW土壌。エネルギーレンジ 1.125-1.5MeV 6時間40分測定

大雑把にいって、 600keV のところに250カウント、 662keV に 120、800に 60 というところでしょう。これは、6チャネルくらいの幅で適当に推定した値 です。バックグラウンドは 800keV でチャネルあたり2カウント、600、662 でも それぞれ 2 カウントというところです。

600keV でのセンサーの効率は800keV の大体3倍 になるので、カウント数が4倍強になっているのはそれほど間違っていません が、3倍よりもだいぶ多いのは 800keV のコンプトン端が600keV にくるため でしょう。また、565keV には Cs-134 のピークが2つあり、604keV の25%程度 はでます。さらに 425, 478 にコンプトン端がくるので、 400keV 前後では 662keV のピークよりもずっと高いカウントになるわけです。

大雑把にいって、375-469keV のレンジで平均カウント数が35程度、バックグ ラウンドでは6程度、チャネルは32チャネルあるので、800カウント程度です。

というわけで、3つのピークでシグナル+バックグラウンドの合計が430カウン ト、バックグラウンドが30-40 カウントです。ということは、意味がある 測定のためには合計で最低 20カウント、つまりサンプルWの1/20 は必要です。 30カウントがゆらぎで50まで増える確率は1パーセント以下のはずなので、 まあそれくらいあれば一応信用できるでしょう。

そうすると、サンプルの重量・サイズが同じだと、 500Bq/kg 程度でやっと、 というところになります。1kg くらいもってくると 100Bq/kg にできるわけで すが、もうちょっと感度を上げるにはやはり遮蔽ですね、、、バックグラウン ドをさらに半分にできると、理論的には検出限界を 1/1.4 にはできるわけです。 1/10 にできれば 1/3 ですが、そのためには 60g 程度の厚さ(1平方センチあた り)の遮蔽が必要で、水とか本とかだと1mくらいの立方体の真中におくとかいっ た話でかなり邪魔です。鉛ブロックだと10cmもいらないのでコンパクトではあ りますが、重量はそれなりにあります。

また、バックグラウンドを十分に下げることができると、コンプトンで見えて いる400keV あたりのシグナルも使えるのでトータルのカウント数を3倍程度 にできます。但し、見積もると現在の 1/10 ではまだちょっと苦しいですね。

実際に 340+430ベクレルのサンプル Y を測定してみました。

Figure 45: サンプルY土壌。エネルギーレンジ 0-0.375MeV 6時間40分測定

Figure 46: サンプルY土壌。エネルギーレンジ 0.375-0.75MeV 6時間40分測定

Figure 47: サンプルY土壌。エネルギーレンジ 0.75-1.125MeV 6時間40分測定

Figure 48: サンプルY土壌。エネルギーレンジ 1.125-1.5MeV 6時間40分測定

バックグラウンドに比べると、600、660, 800 のところでそれなりの ピークが見えていて、バックグラウンドとの差の合計はまあ50というところで す。一応、理論通りに検出はできているという結果です。

なお、TA100 からデータをUSBで読めるアップデートが発売になるようなので、 それを使うともうちょっときちんとした定量ができ、バックグラウンドの 差し引きも精度良くできるようにはなります。

今日は台風がきてて、Bi214 のレベルが上がっているかもしれません。測定に はちょっと問題あり。

スペクトルがとれることのメリットはバックグラウンドノイズや K-40 等の他 の核種とは別に Cs を見ることができることですが、TA100 では若干 CdTe セ ンサが小さく、統計を上げるのに時間がかかりすぎるのが難点です。例えば、 もう10倍感度があれば、検出限界を 1/3 程度にはできる計算です。

というわけで、TA100 については

というようなところではないかと思います。食品にはもうちょっと感度が欲し いところですが、それでも遮蔽を良くすれば相当いける、ということです。 2-3cm の鉛の遮蔽は材料費2万円程度で作れるようなので、やはりそっちかなあ、 と考えています。

ちなみに、50万円程度の NaI シンチレータでスペクトルをとれるものも TA100 のメーカーからでており、これだと感度が30倍程度になるので理論上は 6時間で 20Bq/kg 程度、遮蔽でバックグラウンドを 1/4 にできれば90分で それくらいができることになり、感度は十分なのですがさすがに値段が、、、 というところです。家庭に1台、とはちょっといきません。20万でも高い ですが、、、

4.1. 鉛遮蔽

東急ハンズで鉛インゴット(1kg 1260円)を売ってたので、鉛遮蔽を作ってみま した。5面をカバーするだけの大雑把なものです。

Figure 49: 東京室内。鉛遮蔽。エネルギーレンジ 0-0.375MeV 6時間測定

Figure 50: 東京室内。鉛遮蔽。エネルギーレンジ 0.375-0.75MeV 6時間測定

Figure 51: 東京室内。鉛遮蔽。エネルギーレンジ 0.75-1.12MeV 6時間測定

Figure 52: 東京室内。鉛遮蔽。エネルギーレンジ 1.12-1.55MeV 6時間測定

600, 660 keV では本での遮蔽に比べて半分強、800keV ではより大きな効果が でています。低エネルギー側ではもっと大きく減っていますが、 MeVに近いところではそれほどの効果はないことがわかります。
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