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2004年12月03日
IT

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デジタル技術:
“4次元宇宙”を体感 国立天文台プロジェクト

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スクリーンの前に立つ小久保上級研究員

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立体画面を作る2機のプロジェクター

 空間的にも時間的にも膨大で実感しにくい宇宙を、立体映像でわかりやすく表現する「4次元デジタル宇宙(4D2U)プロジェクト」が国立天文台で進められている。立体映像は、最新の観測データやスーパーコンピューターを使った計算シミュレーションから得た理論モデルを、デジタルデータとして再構築するもの。国立天文台の小久保英一郎上級研究員(36)にプロジェクトの概要を紹介してもらった。【高木 健一郎】

■■迫力の立体映像

 4D2Uプロジェクトは、科学技術振興機構の計算科学技術活用型特定研究開発推進事業として2001年12月にスタートした。宇宙を立体映像で表現することで、一般向けには学校教育や社会教育の場でのわかりやすい教材として、天文学やその関連分野の研究者向けには、データの活用が期待できる。

 プロジェクトで開発しているのは、4次元可視化実験システム「4次元デジタル宇宙シアター」。4次元とは、立体の3次元と時間の1次元を意味し、宇宙の現在の様子を表すばかりでなく、星や銀河の形成過程など時間を追うことができるシステムを目指している。

 シアターは、国立天文台三鷹キャンパスの実験室内に設置。1.8メートル四方の正方形のスクリーン3面が、真ん中のスクリーンをはさむ形で135度の角度で広げられている。各スクリーンには、2台のプロジェクターで、それぞれ右目用と左目用の視差をつけた2タイプの映像を投影。映像は偏光フィルターを通しているので、偏光めがねをかけて見ると、立体映像を楽しむことができる。

 シアターは1回に約20人しか視聴できないが、スクリーンから浮き上がり、手を伸ばせばつかめるのではないかと思うくらいの迫力映像は必見だ。現在は2カ月に1回、一般向けにキャンパス内で試験公開を行っているが、毎回整理券を配布し順番待ちになるほどの人気だという。

 ここでの上映は、完成した映像ソフトを流すのではなく、解説者がコントロールパッドで操作しながら進めるライブ形式で行っている。1回あたり約20分。小久保研究員は「来場者の反応や要望に合わせて、話しを組み立てられるようにしました。大人は理屈を楽しみ、子供は映像そのものに興味を持ってくれるようです」と話す。

■■シアターで連続的に全宇宙を見る

 このシアターのすごさは、やはり、科学的なデータに基づくことだ。そして、地球から宇宙の果てまで、スケールを大きくしながら連続的に全宇宙を見ることができる点が新しい。空間的に膨大で実感しにくい宇宙だが、こうしてみるとわかりやすい。

 太陽系の惑星や衛星など地球に近いものは、各種観測データを使っている。また、地球から約3000光年以内の明るい天体は、欧州の天体観測衛星「ヒッパルコス」で観測した位置を立体的に再現している。おおいぬ座のマイナス1.5等星「シリウス」、こと座の織女星「ベガ」、おうし座の散開星団「プレヤデス星団(すばる)」など、星座でなじみが深い天体の立体的な位置関係を体感することができる。

 3000光年より大きなサイズになると、銀河系が形を表してくる。太陽系が属する銀河系は、外から眺めることができないため、理論モデルを元にコンピューターグラフィックで描いた立体画像を使っている。銀河系以外の銀河については、国際共同プロジェクトで宇宙の地図を作製しているスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)の観測データで分布を再現。「おとめ座銀河団」、さらには銀河の分布を示す「宇宙の大規模構造」までをながめられ、宇宙年齢による限界の137億光年までズームアウトすることができる。

■■次の目標はドーム型スクリーンでの上映

 一方、太陽系や銀河系はどのようにできたのか--。これをシアターで表現するのが、スーパーコンピュータのシミュレーションをもとに映像化したアニメーション。銀河形成では、50億年の過程を約2分アニメーションにまとめている。また、巨大衝突説が有力な「月の形成」では、地球の周りを回る10万個の粒が天体にまとまる様子を描いている。

 同プロジェクトは11月末で3カ年の区切りを迎えた。プロジェクトとして成果を公開することになっているため、12月以降にウェブを利用してリリースする予定で、リリース版では、特別なハードウエアがなくてもよいように、PC上でシアターと同様の内容が見られるものを配信するという。

 そして同プロジェクトの第2期が、すでに7月からスタートしている。第2期ではこれまでの3面スクリーンではなく、プラネタリウムで上映できるようドーム型スクリーン対応にすることを目標にしている。さらにシステムを持ち運んで外部での上映が可能なものを検討している。

 プロジェクトには新たに外部の技術者が加わり、さらなるシステムの向上に挑むという。小久保研究員は「ドーム型への上映では、複数のプロジェクターで絵を重ね合わせる必要があり、技術的に難しくなりますが、多くの人に見てもらえるよう、充実させていきたい」と話している。

 次回の公開は25日に予定されている。問い合わせは国立天文台、0422-34-3600まで 。

国立天文台
http://www.nao.ac.jp/

 2004年12月2日

この一週間

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