Copyright 1999. Jun Makino
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まず、一般的なこととして、今回の臨界事故っていうのは、普通の原子炉の事 故とはかなり性格が違うということは理解しておく必要があるでしょう。普通 の事故では、運転中の原子炉で、109キュリーとかの放射性物質が 溜っている(ウラン数トン分の分裂生成物)ところで、それが環境中に洩れ るかどうかが問題なのですが、今回はもともと放射性物質があったわけではな くて、臨界事故そのものによって起きた分裂反応とそれからの2次的な放射化 によっています。したがって、関係する放射性物質の量としては、以下に見る ように1億倍程度の差があるわけです。
まず、問題になるのは、どれだけ核分裂が起こったかということです。この量 が、でた放射線の量も分裂生成物の量も決めるわけですから。で、 もちろん上限はもともとあった235U の量(約 3kg)なのですが、 実際にはこれよりも何桁も少ないでしょう。これだけが出てたら事業所周辺が 蒸発しているからです。 では、どのようにして見積もればいいかということですが、これは(少なくと も専門家でない私には)結構困難です。推定の方針としては、臨界が続いてい た時間とそのあいだの反応速度の積で出すというのが無難と思われますが、反 応速度の見積りがよくわからない。私が思いつく考え方は、
でも、「難しい」でおしまいにしてはしょうがないので、いい加減な見積りを すると、まず、臨界が維持されたということから、ウラン溶液は弱いにしても沸騰状態 にあって、ある程度ボイドがあることで一定の反応率を維持したと思われます。 溶液の総量は100 kg 程度でしょう。数時間臨界(沸騰)が続いたとすれば、この溶液 の有意な割合が蒸発してもまあ不思議はない。蒸発した量を仮に 10kg とすれ ば、水の気化の潜熱が 2x106J/kg (であってましたっけ?)くら いなので、発生した熱量は 2x107J。これにたいして、ウラン 1g の分裂では 7x1010Jでるので、 0.3 mg くらいということになる のかな。でも、これは下限ですね。冷却水のほうにいった熱量によっては、 1-2桁は多いかもしれない。というわけで、分裂したウランは 3mg (誤差1桁 以上)。
分裂生成物のうち、特に問題になるのは半減期が短く(ということは 重量あたりの放射線強度が高く)て体内に溜る 131I とかですが、 これは収量が 3% ということなので、 0.05mg くら いヨウソができる。ヨウソはだいたい 10万キュリー/g なので、 5Ci くらい できた(前にも書きましたように、誤差は1桁以上)ということになります。
この 5 Ci が多いか少ないかが問題ですが、イギリスのウインズケールの黒鉛 炉の事故では、 2万 Ci が放出されて、半径 20km の牧場でとれた牛乳は破棄 するとかいう騒ぎになりました。2乗でスケールすれば、数百メートル範囲と いうことになりますが、仮にある程度が本当に放出されたとすれば、風向きと かの影響が大きいのでなんとも、、、ということになります。
ただし、今回の事故では、かなりよく建物内に閉じ込められているらしいので、危険はかなりすく ないとみてよいのではないかと思います。(でも、クリプトンやクセノンは出た と思うんだけど、検出されてないってのは本当なのかなあ、、、)
なお、2次的な放射化(中性子吸収等による)については、もちろん起こっ ているわけですが大半は建物内でしょう。さらに、大半の中性子は水素に吸収 されて重水素になると思われる(吸収断面積は水素が圧倒的に大きい)ので、 分裂生成物自体にくらべれば影響は小さいはず。