米英軍が21日にイラクで実行した大規模空爆の戦略「衝撃と恐怖」は、「孫子の兵法」を参考に米国人の軍事学者が現代版に仕立て直したものだった。命中精度が高い精密誘導弾で市民への被害をできるだけ避けつつ、じゅうたん爆撃のような印象でイラク軍の戦意を一気に喪失させることをねらう。戦わずして敵の抵抗をくじく大胆な戦略が、もくろみ通りフセイン体制の転覆につながるのか。(ワシントン=石合力、梅原季哉)
21日の大規模空爆のテレビ中継では、バグダッド中心部の夜空を突然、閃光(せんこう)が切り裂き、轟音(ごうおん)とともに巨大なキノコ雲が次々と上がるのが映し出された。第2次大戦中の戦略爆撃さながらの光景だ。
だが、作戦終了直後に米国防総省で開かれた記者会見で、ラムズフェルド国防長官はこうした見方を全面否定した。「まったく比較にならない。きょう使われた兵器は、過去に誰も夢にすら見なかった正確さだ」
実際の被害は最小に抑え、敵軍が戦意を失う効果を最大限に発揮させようというのがこの戦略の特徴だ。攻撃対象のバグダッド市内の大統領宮殿は過去にも米英軍の攻撃対象になっており、空爆時はほとんど無人だったと見られる。
「戦争とはだますことだ」(孫子)。この発想が、ハーラン・ウルマン博士(60)が新しい戦略思想を考える基礎になった。博士は「孫子が言ったように、戦わずして勝つことを考えた」と言う。米国防大学の教官だった96年、湾岸戦争を指揮した元将軍たちとの共同研究で「衝撃と恐怖」戦略を提案した。
「衝撃と恐怖は敵の意思を制御する。衝撃は一瞬のうちに心に傷を与え、恐怖は長期的に選択肢はもうないと相手に分からせる」
例は広島・長崎だという。「2発の原子爆弾で日本人は自殺的抵抗からみじめな降伏へと一変した。驚きじゃないか」
ただし軍事技術の進展で、核兵器を使わなくてもそれを達成できると考える。「命中精度の高い兵器に心理戦や電子情報戦などの手段を組み合わせれば、敵に絶望感を抱かせることができる。多数の死者を出す市街地爆撃などはせずにすむ」
それでも、空爆に慣れっこになったイラク軍が今回どう反応するかは未知数だ。南部などで投降の動きもあるが、総崩れにはなっていない。
誤爆による民間人の犠牲が出れば、米国が期待する心理的効果が裏目に出る可能性もある。圧倒的な破壊力の映像がテレビに流れ続けるだけでも、イラクを取り囲むアラブ諸国の民衆の反米意識を刺激しかねない。
「衝撃と恐怖」が機能せず、戦争は長期化する可能性もある。孫子の兵法には米国に耳の痛い警句もある。「戦いが長引けば軍は疲弊し鋭気をくじく。敵の城を攻めれば戦力も尽き、国家の経済も窮乏する」
(03/23 16:55)
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