「黒木のなんでも掲示板」での記事等

1999年 10月28日から 30日にかけての書き込みのうち、関係あるものだけ抜き 出しました。ただし、個々の書き込み自体は編集していないので、無関係な内 容も混ざっています。
Id: #a19991028030945 
Date: Thu Oct 28 03:09:45 1999
Name: 山下ノボル
Subject: まきのさんの本への感想です


 まきのさん はじめまして。

 遅くなりましたが、「パソコン物理実地指導」(中身を見ずに買った本)の感想です。
うーむ、自分から振っておきながら、いざ書くとなると緊張しますね。

 最大の疑問は 赤木助教授の名前は リツコ なのかどうかということなのですが、考えてみれば、イエスともノーとも答えられない野暮な質問ですね。失礼しました。
 買ってない方へ:この本は、赤木助教授(女性)と学生Aの対話形式で書かれています。赤木助教授の辛らつな語り口が結構すてきです。
 ちなみに 私は数理科学(95年6月号)はすでに読んでいました。参考文献の一つに挙げられている「数値計算の常識」は私の愛読書ですが、知識以上のものではありません。Cはちょっとかじりましたが、C++はわかっていません。

 数値解法に関する成書でシンプレクティック法を取り上げたのは、この本がはじめてではないかと思います。その点から言うとシンプレクティック解法に関する理論的な背景がほとんど解説されていないのはちょっと残念なのですが、それはまきのさんのホームページにある講義ノートなどを見ればよいとすれば、各種数値解法の実装と各解法の実力・特徴を実感できて良いですね(実装演習の部分はさぼってやっていませんが)。また、8章、9章はカオスを発生すると考えられる微分方程式の数値解をどう評価するのかについて書かれていますが、この話題は私は見たことがない内容ですので興味深く読みました。1文をあげると
P91赤木「<前略>まあ、大抵みんなあると思っているんだけど本当のところはよくわかっていないわけ.これは、数値計算ではきめられないでしょ?そうすると、理論的に何が言えるかっていうことになるんだけど、これはとっても難しいみたい.」
 順当な理解なのだろうと思いますが、笑ってしまいました。こんな文を見ると、計算物理に絶望してしまう人が出そうです(冗談です、念のため)。
 読者がUNIXとC++についてある程度理解していることを前提とすることはまえがきに書いてありますが、数値解法についてどういう知識を要求しているのかについては書かれていません。まえがきの雰囲気としては、数値解法については何も知らなくてもよいかのように見えなくもありません。しかし、第1章ではオイラー法、ルンゲ・クッタ法という名称が説明なしに現れ、第2章では誤差がO(h)、O(h^2)という表現がこれまた説明抜きで現れます。  また、まきのさんのホームページの講義資料のページには「この講義と内容的には相互補完的な演習書みたいなものを出した。」 というこの本への言及があります。  これらから見ると、微分方程式の数値解法についての一般的な、あるいは旧来の知識を読者はすでに理解していることを前提としているように思えます。プログラムの実行、結果の誤差評価は 知識がなくてもできるので、興味がわけば自分で調べるための情報は載っているよでOKなのでしょうか?ちょっとひっかかりました。
 まとめて言えば、わたしが数冊以上のテキストから得た知識+αを1900円で手にいれられるお買い得なテキストだと思います。時に罵倒ありの対話方式の文体については好き嫌いは分かれるかもしれません。実は私は、対話方式というのはあまり好きではないので、この本も対話方式でなければ、もっと内容が増えたのではとちょっと思っています。

 ついでに私がおもしろいと思っているシンプレクティック関連のねたを一つ。
 1次元調和振動子を表す微分方程式 d^2x/dt^2=-k*x を解くプログラムを考えます。
ごく初歩的に dv/dt=-k*x、dx/dt=vという連立形として解くことにすると、そのプラグラムのメインループ部分は次のように書きたくなります。
   for(....){
      dvdt=-k*x;
      v+=dvdt*Dt;  Dtは時間刻み
      x+=v*Dt;
      ....
      }
これは、オイラー法ではなくて 1次のシンプレクティックです。
正しく?古典的な多変数のオイラー法にするためには
   for(....){
      dvdt=-k*x;
      x+=v*Dt;    ←
      v+=dvdt*Dt;  ←xとvの行の順番が先ほどと逆
      ....
      }
としなくてはいけません。
 かくして、世界中の不注意な初学者によって、それと知らずにシンプレクティック解法が実装され、「オイラー法って結構精度いいな、台形法よりいいんじゃないか?」という誤解を生んでいると私は想像しています。この後「でも、何か変だな......あ!そうか」と続くのかどうかは定かではありません。

 この文章を読んでシンプレクティック解法に興味を持った方のために、本書以外のシンプレクティック解法について日本語で読める資料について

数理科学95年6月号 P37〜 シンプレクティック数値解法 吉田春夫
 95年では、まだ「シンプレクティック解法が十分に普及していない現時点においては、卒業論文1つ書くにしても、誰もが知っているRunge−Kutta法で計算するよりは十分に「かっこいい」はずだ、<以下略>」という状況だったようです。その後普及したのでしょうか?今回のまきのさんの本が、成書ではじめてシンプレクティックに触れたとすれば きっとまだまだなのでしょう。

岩波講座 現代の物理学1 力学 大貫義郎・吉田春夫 著
 巻末に補章として10ページの説明があります。
 最近の非線形力学の成果を含めた、解析力学のテキストとしてもおもしろそうです。

計算物理のためのC/C++言語入門
 東大物理学科の院生さんのページですが、ここにもシンプレクティックの解説があります。(この方は今回のまきのさんの本の謝辞に名前が挙がってる方ですね。)

数理科学99年8月号 P34 ハミルトン系の数値解法 船渡陽子・牧野淳一郎
  シンプレクティックに続く 新数値解法:シンメトリック解法に関する記事

 追加1
 C++が使ってみたくなり(使ってるコンピュータはWINなので、CygnusとGCCで フリーの環境が手に入るはずですが、いつ実現できるか未定です。)、 とりあえず「プログラミング言語C++第2版」(斉藤信夫他訳、トッパン)をさがしにいったのですが、どーにも本屋の棚に見つからない。はっと気づくと「プログラミング言語C++第3版」(長尾高弘訳、アスキー)と、新版が出て、訳者と発売元が変わっておりました。

Id: #a19991028040933 
Date: Thu Oct 28 04:09:33 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028030945
Name: くろき げん
Subject: 『パソコン物理実地指導』は楽しそうですね

山下ノボルさんによる牧野淳一郎著『パソコン物理実地指導』 (共立出版物理学演習 One Point 5) の紹介は楽しそうですね。「パソコン物理実地指導」というタイトルで辛らつな語り口の赤木助教授(女性)に(仮想的に)学生の実地指導をしてもらう話を書いてしまったのか! 山下さんがわざわざ「中身を見ずに買った」と言った理由(とそのニュアンス)がわかりました。表紙のデザインと本の題名からは、全然違う感じの本を想像してしまいそうですよね。見付けたら、僕も買っておくことにするかな。


Id: #a19991028082134 
Date: Thu Oct 28 08:21:34 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028030945
Name: たざき
Subject: 人のこと、ばあさんなんて、いうもんじゃないわ

リツコもミサトも、ぼくの娘と同級生くらいだと思いますので、 リツコではあり得ない。 まきのさんのご本をまだ読んでいないのでわからないけれど、 可能性があるのは、もう一人の方でしょう。 ぼくも、買ってみよう。 (久々の投稿なのに超くだらなーい。)
Id: #a19991028143127 
Date: Thu Oct 28 14:31:27 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028030945
Name: 早川
Subject: 牧野さんの本

牧野さんの本、私も買いました。ざっと見たところ、私のような レベルの者がしがちのプログラム上のミスや注意事項が多く、 役に立ちそうです。印象では私が2年以上に教えている講義/実習の 次に続くレベルです。もっともこちらの物理ではそれすら受けていない 者が多いし、数値計算は全くやっていない人が大学院に入ってくる ので直接M1に勧めた方がいいのかもしれません。

ところで金沢では体調不良で牧野さんにお会いできなくて残念でした。 しばらくアメリカに滞在して先ほど帰国して私のところに滞在しているPDFは Fast Multipole Methodを粘性流体に適用しようとして四苦八苦しています。 金沢の会議はそういういかにも計算物理的な仕事から単に計算機を使った 物理の仕事まで混在していて今一歩まとまりがなかった気もします。

今朝の朝日で小波さんが京都に来ることを知りました。でかでかと載っていた。


Id: #a19991028184241 
Date: Thu Oct 28 18:42:41 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028030945
Name: まきの
Subject:

ども、お役所向けお手紙の作文ができていないまきのです。

山下さん、

感想と内容の紹介どうもありがとうございます。「いきなり 4 次のルンゲ・ クッタが出てくるのは予備知識の要求水準が前書きとあわない」ってのは確か にその通りで、実際に読者に想定しているのは数値計算の入門程度の講義なり を受けるなり本を読むなりしたことがある人(極めて具体的には、研究 室に来た修士1年くらい)です。前書きはちょっとよろしくないですね。

「実地指導」という題は編者(大槻・小牧となっていますが、私は小牧さ んとしか話してません)から来たものです。で、「実地指導」というタイトル なんだから実際に指導するような気分を出したいし、とすれば対話形式かなと、、、 確かに冗長になるというか、内容が薄くなるのですが、あまり内容を詰め込む とわかりにくくなるということもまたあります。まあ、正直なところは一度 「全編対話形式」というのをやってみたかったからというだけです。ちなみに、 名前が「赤木」なのは単に内輪受けを狙っているだけで、それ以上の意味はな いです。他に「国枝」案とかもあったのですが。

シンプレクティックといえば、金沢の研究会の plenary talk で D. P. Landau が鈴木・トロッター分解の話をしたのですが、その前に鈴木先 生が自分の論文のリプリントを配って回っておられたのがなかなか印象的でし た。私も見習わないといけない。

ところで早川さん、 FMM を粘性流体にというのは voltex method で粘性をあ つかうという話でしょうか? FMM は遠距離で効く(近距離は結局直接計算す る)話ですし、粘性は本質的に近距離な話ですから、 FMM がどうっていうよ りも粘性の表現自体が難しいのではないかと思います。 FMM は FMM で繁雑と いうか、ややこしいものですが。

ついでに、「オルバースのパラドックスは未解決」という説というのは知りま せん、というか、膨張宇宙説をとればよほど変なことを考えない限り解決され てしまうように思うので、オルバースのパラドックスを復活させるためにはか なり古典的な定常宇宙(ホイルみたいなのじゃなくて、本当に定常)をとらな いといけないような気がするのですが、、、


Id: #a19991028233401 
Date: Thu Oct 28 23:34:01 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028184241
Name: 山下ノボル
Subject: 国枝,赤木

リツコさんじゃ なかったのかあ..残念ですというわけでもないのですが、国枝なら桃子さんだろうと思うのですが、赤木が思いあたりません。
 かん子さん?。。実在のしかも文系の人じゃないだろうしなあ。。
 たざきさんは、「可能性があるのは、もう一人の方でしょう」と想像がつかれているようですが、モデルは誰なのでしょうか?
  意味なし発言で すみません。

Id: #a19991029084438 
Date: Fri Oct 29 08:44:38 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028233401
Name: たざき
Subject: 赤木リツコ君、本当に××××

山下さん、 前回のぼくの Subjet でおわかりにならなかったというのは、 健全な証拠かもしれにゃい。 近隣の健全でない方に -- MGAI 作ったのって誰だっけ -- となにげに聞いてみて下さい。 年齢、専門ともにぴったりです。

こんなことばっかし書いてると私のキャラについて誤解を生みかねないと危惧するものである。 オルバースのパラドックスについて真面目の書こうと思っているのだが、 これから講義だ。


Id: #a19991029120137 
Date: Fri Oct 29 12:01:37 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991029084438
Name: まきの
Subject: 「ブザマね」

というセリフが使われるべきではないかという指摘も一部 teneva 方面からあっ たわけでして、まあ、それは却下したあたりで一応リツコさんではないという ことで。

オルバースですが、うーん、問題の論文というのは これですね。これの このページにある図1というのが主張の根拠で、例えば Einstein-de Sitter (まあ、その、いわゆる普通な宇宙モデルです)で zf、 つまり銀河とか星が生まれる時期を変えた時に明るさがどうなるかというのを、 膨張宇宙と仮想的な定常宇宙とで比べています。なお、z は redshift で、 0 が現在、 ∞がビッグバンの時刻に対応します。遠くからの光は距離の分だけ 昔に出ているわけですが、zと時刻の関係も z と距離の関係も宇宙モデルに依 存します。で、まあ観測可能な量は z だけなので、普通宇宙論では距離/時 間の尺度に z を使うわけです。

で、この図ですが、実は2通りの読み方が可能です。

  1. 仮想的な定常宇宙(破線)と膨張宇宙(実線)を比べてみると、zf が普通であればその差は2-3倍しかない、従って、宇宙が膨張しているという 効果はたいしたことはない。
  2. 実線のほうだけをみると、膨張宇宙の場合、zfをいくら大きくしても明るくならない。 しかも、これは宇宙モデルによらず、宇宙年齢が無限大の de Sitter でもそ うである。従って星や銀河が生まれたのが最近であるという効果はたいしたことはない。
もちろん、この2つの読み方は同じことを別の方向からみているだけで、年齢 が有限であるというのも膨張しているというのもオルバースのパラドックスを 解決する(無限を有限にする)には十分であって、どっちかを先に入れた計算 で次にもう一つのをいれれば後に入れたほうの効果が見かけ上小さくみえると いうだけの話です。例えば Einstein-de Sitter をとった時点で、宇宙年齢は 有限でありしかも宇宙は膨張しているということになるわけで、その2つを分 けて効果を「定量的に」比較するというのはナンセンスだと私は思いますが。

とはいえ、そんな論文がでちゃうあたり混乱があるというのは確かですね。


Id: #a19991029153253 
Date: Fri Oct 29 15:32:53 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991028030945
Name: こなみ
Subject: 面白いと思って書かれた書評は魅力的だ

牧野さんの本,面白そうですね。山下さんの紹介のいきいきした感じで,きっと 面白いのだろうと考えて注文することにしました。
もっとも,本の内容をよく見ようと思って(ISBN, 価格など) 牧野さんのページの URL を叩いたら,いきなりクレジット払いの窓口で おねえちゃんから挨拶されたような 雰囲気だったので, 出版社のページから 検索しました。こっちの URL もつけておいてくださったほうが,親切かと。

山下さんのオイラー法のつもりがシンプレクティック法という話しは面白いですね。 最近は微分方程式を解くようなプログラムを書いてないけど,パソコン買った最初の頃 には,オイラー法を自分で思い付いて(だれでも思い付きますよね),問題を 解いては悦にいっていたけど,実は順序が違っていたから悦に入れたのかも。 8087 を PC9801 に付けるために7万円も投じた昔の話しです。


Id: #a19991029181741 
Date: Fri Oct 29 18:17:41 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991029153253
Name: まきの
Subject: 共立出版

あ、こなみさん、御指摘ありがとうございます。元は共立はオンラインショッ ピングのページしかなかったのですが、そういえば2週間位前に新しい Web site を作りましたという連絡が(葉書で、、、)来てました。 あれ、良く見ると共立のところの本の紹介の文章も全然変わってる。僕のとこ ろの文章(変更前のは これ)をみて書き直したのかしら?あれれ、さらに良く見ると日本語になっ てないっていうか、一行欠落かなんかしてる。文句いっとかないと。
Id: #a19991030011936 
Date: Sat Oct 30 01:19:36 1999
In-Reply-To: a0051.html#a19991029120137
Name: 山下ノボル
Subject: 気づいてみれば...

 うーむ、気づいてみれば、たざきさんの最初の発言のSubjectからして、答が書いてあるようなものでしたね。自らのXXXとしてのいたらなさを深く恥じます。
 ところで、赤木(母)がああいうものの言い方をしそうな人だということをうかがわせるようなシーンってあったかなあ?赤木(娘)の方は記憶にあるのですが...
 すごく暇なときにでも、ビデオテープ(録ってあるところが何ですが(苦笑))で確認します。

きくち先生 単位下さい じゃなくて、
「オイラー法のプログラムを書こうとして間違って最低次のシンプレクティック法 (蛙飛び)のプログラムを書いちゃうのって、ありがち。」
 業界では周知のネタでしたか。NIFTYSERVEの物理フォーラムでこの話題を出したとき全然うけなかったので、数値計算関連は物理好き(ってどういう人達だ?)の間でもマイナーな分野なのだなと思ったことがある山下でした。