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97. 福島原発の事故 (2011/3/19-21)

この文書はスパコンについて考えるために書き始めたものなので、あんまり関 係ないことを書くのは違う気がしますが、一度考えをまとめておきたいのと、 巨大プロジェクト、という意味でいろんな思うこともあるので書きます。

2011/3/11 の東北関東大震災で、福島県にある東京電力の福島第一原発が 重大な事故を起こしています。これについては色々な人が色々なことをいって いますが、原子炉の物理、核物理、放射性物質の振る舞い、人体への影響といっ た様々のところいくつもが間違っているものが多いです。どのようなことが起 こったのか、その影響は現在までどれくらいか、今後どうなるのか、といった ことをまとめてみます。

なお、3/30 くらいまでの状況については 99 に書いています。

97.1. 核分裂反応と原子炉の基礎の基礎

原子炉の中での核分裂反応はどうやって起こっているか、ということをまず簡 単にまとめます。基本的には、235U ( と書くべきですが以下 面倒なのでこの表記。質量数 235 のウラン同位体です)にあまりエネルギー (速度)の高くない中性子が当たると、原子核が不安定になって2つに分かれる、 その時に平均 2.5 個の中性子を出す、というのが核分裂反応です。

ここで、でた中性子がまた235Uにあたって吸収され、さらに分裂が起こるのが 連鎖反応と呼ばれる現象です。これによってはネズミ算的に核分裂が進み、 爆発にいたるのが原子爆弾です。

原子炉では爆発しては困るので、 平均 2.5 個の中性子のうち1つだけが核分 裂につかわれ、後の 1.5 個は別のことにつかわれるようにしています。別の ことには 2つあります。

一つは核分裂しない 238U に吸収させることです。そうすると中性子を吸収し た 238U は電子を放出(β崩壊)して239Pu、プルトニウムに変化します。 天然ウラン中では 99% 以上が 238U で、235U は 0.7% しかないために、実は そのままでは 235U が放出した中性子は殆ど238U に吸収されてしまって、 連鎖反応を継続させることができません。少なくとも1個を235Uに吸収させる 方法は2つあります。

一つは、中性子の速度を落とすことです。235U と 238U では中性子との反応 の速度依存性が違い、中性子の速度が遅いと235Uと反応しやすくなります。 速度を落とすには軽い原子核と衝突させます、水素・酸素からなる水や 炭素(黒鉛)が使われます。但し、普通の水だと、水素が中性子を吸収してしま う、という問題があり、水を減速剤に使って天然ウランで原子炉を作ることは できません。陽子1つの原子核である水素 H の代わりに陽子と中性子からなる 重水素 D でできた水(重水)を使えば、この問題を解決できます。このため、 黒鉛や重水を減速剤に使えば天然ウランで連鎖反応させることができます。

天然ウランに比べて235U の割合を高くした「濃縮ウラン」を使えば、 水を冷却剤に使っても原子炉を作ることができます。現在日本で商業発電に 使われている原子炉は全てこのタイプで、「軽水炉」と呼ばれるものです。

実際に連鎖反応をあるレートで継続するには、微調整をする必要があります。 これは、燃料の間に「制御棒」と呼ばれる、中性子を吸収しやすい物質で作っ た棒を挿入することで行ないます。基本的には、制御棒を一杯に差し込むこと で連鎖反応は急激に停止します。

但し、連鎖反応が止まっても、発熱は0にはなりません。これは、核分裂でで きた色々な原子核が、安定ではなくてα崩壊やβ崩壊をして熱を出すからです。 この発熱は、連鎖反応が停止して0.1秒後で元々の出力の 10%、1時間後で 1.5%、1年後でも 0.1% 程度になります。

福島第一原発の場合、2-5号機は同型で熱出力が 200万kW、すなわち 2GW 程度 なので、1時間後で 30MW、1年後で 2MW 程度の発熱となります。「停止」した あとでも冷却を続けないと、燃料はすぐに高温になってしまうわけです。

97.2. 原子炉の構造

軽水炉には PWR (加圧水型)とBWR(沸騰水型)の2つがありますが、福島原発は 第一も第二も全て BWR なのでまずそちらの話をします。ちなみに、1979 年に アメリカで事故を起こしたスリーマイル原発は PWR です。

BWR の場合、原子炉は基本的には湯沸かし器で、圧力釜の中に細長い「燃料棒」 を整然と並べたものです。

燃料棒は金属(ジルコニウムをベースにする合金)のチューブにいれた酸化ウラ ンのセラミックの錠剤を沢山いれたもので、直径が1センチくらい、福島第一 の場合長さ4メートルくらいの燃料棒大体5000本くらいがはいっていて、燃料 の総重量は100トンくらいのはずです。

圧力釜、というかいわゆる圧力容器は、細長い、断面が円形のカプセルです。 運転している時には燃料棒からでる熱で水が沸騰し、それでできた高圧の 蒸気をタービンに導いて発電し、タービンを通ってでてきた温度・圧力がさがっ た蒸気をさらに2次冷却水(海水)を使った熱交換器で水に戻して圧力容器に注 入しています。圧力容器の中では燃料棒は水面より下にありますが、沸騰して いて泡もまじった状態です。泡があると減速効率がさがって連鎖反応が進みに くくなるので、暴走的に連鎖反応が進むことは BWR ではないとされています。

実際の原子炉では、この圧力容器が万一壊れた場合にに備えて、この全体を格 納容器という、下半分が球で上に太い首をつけた容器の中にいれています。

この容器の下には、ドーナツ型をした「サプレッションプール」と呼ばれるも のがあって、太いパイプで格納容器とつながり、さらに圧力容器から緊急時に 蒸気を逃がす弁からのパイプがここにはいります。このサプレッションプール の水の中に蒸気をいれることで水に戻し、冷却するわけです。

さらに、全体を頑丈なコンクリートで作った「建屋」と呼ばれる建物にいれて います。

97.3. 想定された事故と対策

原子炉の事故としては、考えられる限りのものを想定はしていたはずですが、 基本的にはなんらかの理由で圧力容器やその配管が壊れて、水がなくなってし まった、というのが最悪の事態です。これに対しては ECCS (緊急炉心冷却系) という、通常とば別系統で圧力容器に水をいれる系統を用意して、冷やすこと にしています。

97.4. 事故の経緯

さて、では何が起こったか、ということです。以下1-3号炉の話です。

まず、地震を感知して原子炉は緊急停止しています。ここで、「停止」という のは、上に述べた通り、制御棒がはいって連鎖反応が止まった、ということで す。ECCS の動作も始まっていたかもしれません。

しかし、その後、おそらく広域の停電により発電所外部からの電源供給が停止、 その直後に津波がきて非常用のディーゼルエンジンが水没ないし破損したか何 かで動作しない状態になったようです。その後、数時間はバッテリーでどこか (私は良くわかっていません)のポンプかタービンを回すことができていて圧力 容器の中の水を巡回させ、冷却することができていたらしいですが、それも同 じ日のうちに停止、電源車を接続してこの系統を復活させることに失敗したた め、圧力容器から熱を逃がすには格納容器に蒸気を出すしかないことになりま した。これはただちに始まり、数時間で燃料棒が露出する、という事態になる と同時に、サプレッションプールの水ではでた熱を吸収しきれなくなって、格 納容器の中の圧力も上がりはじめます。次の節でみるようにこれが数時間で設 計圧力を超えるので、圧力を逃がす弁をあける必要があります。1号機では、 圧力を逃がし始めた数時間後に爆発がおきました。これは、建屋上のブローア ウトパネルだけを吹き飛ばす小規模な爆発でした。

3号機では 13日にベントをしたのですが14日はしていない、という発表で、何故か14日 に爆発が起こって1号機より大規模な、建屋の海側の横壁も吹き飛ばすような爆発になっています。

2号機は、3/15 にベントをした後に爆発が起こったのですが、この時にサプレッ ションプールが破損したとの発表もあり、どういう爆発なのかはっきりしませ ん。

ここから 3/21 注

某巨大掲示板での匿名の指摘によると、ベント、つまり、格納容器から建屋の 中に(外にもいきますが)気体を逃がす、というのを始めてから爆発が起こって いる、とのことでした。指摘ありがとうございます。1号機ではベント/ バルブ 開放の数時間後で、水素爆発である可能性が高いと思います。3号機は公式発表 ではベントは13日にベント開放をして、14日にはしてないというのが公式発表 だと思いますが、爆発は14日に起こっています。また、爆発の規模が1号機とは 全く違ったので、「同じ種類」という公式発表を信じるべきかどうか疑問な気 もします。ということで、表現を修正しました。

ここまで 3/21 注

爆発のあと、1号機では「消火用ポンプ」で海水をいれています。報道では 「炉内」に海水をいれる、となっていて、圧力容器か格納容器かよくわからな いです。

2, 3 号機では爆発の前から海水注入をしています。

このように整理してみると現在のところ何が起こったかは正確なところは良く わからないです。

なお、3, 4 号機では、原子炉の他に使用済核燃料を水で冷やしながら保存す るプールがあり、4号機ではそこでも水素が発生して爆発が起こったとされて います。

97.5. どんなことが起こったはずか

実際になにが起こったかは良くわからないので、シミュレーションでどうなっ たのかを見ることにします。といっても、もちろん私がやったわけでではなく て、 原子力安全基盤機構原子力システム安全部の報告書リストにある 「地震時レベル2PSAの解析(BWR)」というものの中身を紹介するだけです。

この報告書では、1号炉に対応すると思われる BWR-4(電気出力50万kW)と 2-5号炉に対応すると思われる BWR-4 を含む7種の原子炉について解析を行っ ていて、特にこの2つについては「電源喪失」というまさに今回起こった通り のことをシミュレーションしています。

要点をまとめたところだけを書くと、 BWR-4(電気出力50万kW)では2.4 時間後 に燃料落下開始、3.3 時間後に圧力容器破損、16 時間後に格納容器の破損とな り、70時間後までのシミュレーションでは主に外に放出された放射性物質は CsI (ヨウ化セシウム)、元々炉心にあった量の0.2 % です。BWR-4 では起こる ことは殆ど同じですが、CsI のでる量がかなり多く、9% となっています。

圧力容器が破損するのは、溶けた燃料が底にたまって容器を加熱し、そこが弱 くなって穴があくということと思われます。格納容器の破損メカニズムは良く わからないですが、設計限界を超えた8気圧程度になってから下がる、となって おり、圧力容器と同等に下に燃料がたまってそこが破壊されるのか、もっと違 うところが壊れるのかは私にはわかりません。

現在のところ建屋の中がどうなっているのか殆ど情報がないので、このシミュ レーションに非常に近いことが起こっていると考えるのが無難ではないかと思 います。少なくとも、現在の日本の原子炉の事故に対する最高の知識が蓄積さ れたシミュレーションコードによる予測なので、大きく違うことが起きたとは 考えにくいです。

なお、早い時期に格納容器の圧力を逃がせていた可能性はあります。この時に は、爆発は起きないのですがその代わりに蒸気と一緒に一部の放射性物質は 建屋の外まででたと思われます。

また、格納容器の破壊があったかどうかに無関係に、現在も、さらに今後 数ヶ月から数年にわたって燃料(あるいはその残骸)からの発熱は続きます。大量に水を投入できな いと、その熱は水が沸騰して蒸発することで外に運ばれます。この水は 損傷を受けた燃料棒と接触しているわけで、放射性物質に汚染されています。

チェルノブイリでは減速剤の黒鉛が燃えて、それが極めて効率的に色々な 放射性物質を大気中に巻き上げました。今回の事故では 蒸気なのでそんなに効率良くヨウ素やセシウムを運ぶわけではありませんが、 微粒子の形で、例えば海風が塩を含むのと同じように運ばれます。シミュレー ションでも、格納容器破損のあと CsI の放出はだらだら続いており、放出は 殆どこの段階で起きています。格納容器破損時ではありません。それと 同じことが現在進んでいるものと思われます。

使用済核燃料プールで起きていることも結局同じで、崩壊熱によって過熱した 燃料棒が破損して、水の中に放射性物質が流出、それが水の沸騰にともなって 空気中にでているわけです。

シミュレーションは3日間で終了ですが、実際には既に1週間以上続いており、 2, 3 号炉ではシミュレーションの結論である CsI の9%より多量の CsI が大気 中にでている可能性があります。チェルノブイリは熱出力3GW あり、 1-3号炉 の合計は 6GW と大体2倍です。

1-3号炉の全てで10%でたとすると、 ほぼ全部がでたと想定されているチェルノブイリ事故の 1/5 程度が既に放出 されているかもしれません。但し、ここは1桁程度は不確定性があります。

実際には格納容器が破壊されていないかもしれないから、このシミュレーショ ン結果とは全然違うのでは?という意見もあると思いますが、これについては 最後のほうに書きます。

97.6. 今後どうなるのか?

水が完全になくなって燃料棒が露出すると、熔融した燃料が建屋の床や地面も とかして沈んでいき、地下水層に達して水蒸気爆発を起こし、今まで環境中に はあまりでていなかったストロンチウム等やプルトニウムも大気中にばらまく、 というのが考えられる最悪の事態で、こうなるとチェルノブイリでも経験して いないレベルの事態になります。そうならないためには建屋の床に広がってい ると思われる燃料を数ヶ月にわたって冷却し続ける必要があり、蒸発しない程 度の大量の水をいれるなら放射性物質が海に流れこむ、そうでなければ大気中 へのヨウ素、セシウムの放出が続く、ということになります。1ヶ月程度で大 半が放出されるのではないかと思います。

もっとも理想的に全てが上手くいくと、1次冷却系(緊急系でもなんでもいいが、 熱交換器を通せる閉鎖系のもの)と2次系の両方が回復し、放射性物質をたれな がすことなく炉心その他を冷却できるようになります。そうなると基本的に事 故は収束、ということです。

97.7. それはどれくらい危ないのか?

私は東京に住んでいるのでまず関東のことを書きます。現在のところ、関東に きている放射性物質の量は(茨城県の一部を除いて)非常に低いレベルです。 大雑把に平均すると 0.1-0.2uSv/h (マイクロシーベルト/時)程度上がっているも のと思われ、これをもうちょっと普通の量であるキュリーに換算すると、 関東の面積を4万平方キロとして 5-10万キュリー前後です。これは、地表に残っ ているヨウ素やセシウムの値です。

この量自体は原発の事故としては決して少ない量ではなく、チェルノブイリで 5000万キュリー程度、イギリスのウィンズケール事故で2万キュリー、スリーマイルでは稀 ガスで200万キュリーですがヨウ素ではわずか15キュリーといわれています。

しかし、幸運か不運かはともかく、関東の広い領域に広がったので、個々人が 受ける被曝としては、あくまでもいまのところ、ですが殆ど無視できるレベル です。ヨウ素131は甲状腺に濃集するといった効果もありますが、そういう効 果を、危険が大きい小児、妊婦で考えてもまだ大きな危険ではありません。

ウィンズケール、チェルノブイリ等の過去の事故からわかっていることは、放 出された放射性物質がどこに落ちるかは風と雨次第ということです。放射性物 質は前に書いたように放出された水蒸気と一緒にでます。水蒸気は高温なので 上昇気流になり、地表から数百メートルまで上昇しつつ風にのって運ばれます。 運ばれている過程で少しづつ地面に落ちますが、雨になると一気に落ちること になります。

3/19 までは、少なくとも関東については神風がふいているというべき状況 (もちろん、季節的にそうなる、ということでもありますが)で、福島原発から 関東にむかって風がふいたのは 15日、16日の短い時間に限られ、雨は伴わな いものでした。このため、この2日間に関東に飛来した放射性物質の大半は、 関東に落ちないでさらに拡散していったと考えられます。

風はほとんど西風で、太平洋にむかってふいていましたが、15日の午後に南東 からの弱い風がふき、さらにこの日の17時から福島市一帯で弱い雨となりまし た。おそらくこのために、福島市の測定点での放射線レベルは 20uSv/h と、 自然放射線の500倍(γ線のみ数えた場合に)に上昇しました。また、文部科学 省の測定では、福島市と福島第一原発の中間くらい、原発から30km 程度の場 所では、180uSv/h と自然放射線の5000倍もの値が検出されています。 放射線による急性障害でがでるのは 200mSv 程度からとされているので、 それには1000時間必要で急性障害の危険はありません。が、長時間いたり、あ るいは体内被曝では発ガンが増加する等の影響がでる可能性があります。

3/19 現在で放射性物質の放出は継続していると考えられるので、風下になる領 域で、特に雨が降ると高濃度に汚染される可能性があります。雨の時に外出し ていると特に危険で、衣類、皮膚が汚染される他、呼吸によって体内に入る恐 れがあります。30kmの距離で測定された 180uSv/h もの値が関東で広い面積に わたって発生することは考えにくいですが、福島市で見られた20uSv/h 程度は 風・雨の具合によっては例えば関東の数パーセントの面積で、また、もっと高 濃度の汚染も狭い面積ではありえると思います。

もっとも、これも今後どの程度の放射性物質の放出があるかにもよっています。 最悪のケースではこれまでにでた量の10倍程度が放出されるので、ありそうに はないですがもしもそれが全部関東にきて雨で落ちると大変なことになります。 現在まで、関東に落ちる量は放出された量の1パーセント程度に留まっています が、これは幸運にも雨がなかったせいであり、一度雨にあたると容易に10倍程 度増え、10パーセント程度になるかもしれません。確率的には、悪いほうでこ れまでの30倍、300万キュリー程度です。このうち結構な量が関東の1パーセン ト程度の狭いエリアに集中するというようなことがもしも起こると、1mSv/h く らいにはなりえることになります(チェルノブイリではそのような高濃度汚染ス ポットが見つかっています) この程度になると、人体への影響が無視できない ので、遅くても1日、なるべく早くこのような場所を発見し、避難することが必 要になります。もう1桁低いレベルでもなんらかの対応が必要になると思います。

とはいえ、これは、関東の多くの住民が深刻な被害を受ける、といったことは 極めて考えにくい、ということではあります。東北地方、特に福島県について はわかりません。

このレベルの放射線でもっとも問題になるのは農産物への影響で、植物がまず 地面から濃縮し、動物がさらに濃縮し、となります。これは福島県では既に問 題になる地域があるレベルで、今後対応が必要となります。また、 10uSv/h を 超えるレベルになると、137Csについても 0.1-1uSV/h 程度ある可能性がありま す。131I は半減期8日ですが 137Cs は30年で、基本的に減らないのでそこにで 暮らす人はずっと影響を受けることになります。10年スケールでは人が住むこ とができなくなっている領域がある程度の面積であちこちに発生していると考 えられ、特に福島県については早急により空間分解能の高い測定が必要と考え られます。

97.8. 本当にそんなに沢山の放射性物質がでた/でるのか?

チェルノブイリで 5000万キュリーと上に書いたわけで、もしもその1/5 だとする と1000万キュリーです。本当にそんなに莫大な量の放射性物質がでたのかどう か、シミュレーションだけでなく測定値から見積もってみましょう。関東に きて落ちた量は10万キュリーですが、これと放出された量の比の推定は難しい です。別の方法として、放出量が推定されていて、土壌汚染の程度もわかって いるウィンズケール事故と比べてみます。

ウィンズケール事故では、原子炉から50kmのところの汚染は典型的には でした。これに対して、3/19における福島県での 原発から50kmのところでの典型的な測定値は 2-3uSv/h というと ころです。私の換算が正しいと、 なので、これはとなり、ウィンズケールの100倍です。 なので、100倍の200万キュリーがでているわけです。但し、これは西風で太平 洋にいった分ははいってないので、実際にはこの数倍、と思うと1000万キュリー は全く間違っているわけではなさそうです。

97.9. 色々

97.9.1. 格納容器とか壊れてない、という発表だし、まだ放射性物質はでてないのでは?

確かに、シミュレーションに比べると水素爆発(と発表されているもの) が起きるまでに数倍時間がかかっているので、シミュレーションのシナリオの 通り、というわけではありません。例えば、格納容器の破壊の前にどこかの弁 をあけて圧力を下げ、破損の前に海水注入に成功した可能性はあります。

但し、以下の理由から燃料棒の大規模な破損と放射性物質の大量放出は起こっ ていると考えるべきです。

  1. 燃料棒が大規模に破損していないとは考えられません。これは、 そうでないと理解できない量の I, Cs が放出されているからです。 (1-3 全部かどうかはわかりませんが、多分全部。でなければ水素は発生し なくて爆発も起きないので)

  2. とすると、何が壊れているか、はあまり問題ではありません。注入した海水 が蒸気になってしまえば、(この辺化学に弱い私には断言できないのですが) おそらく I, Cs はある程度水蒸気にも溶ける(特に高温の水蒸気には)し、 また燃料表面で膜沸騰のような激しい沸騰状態になっていたら、そこで濃縮 された CsI が微粒子になって水蒸気にまざるといったことも起こると考え られます。この水蒸気は、圧力容器、格納容器が壊れているかどうかに無関 係に、基本的には大気中に放出されていると考えられます。

  3. 沸騰を抑えるだけの大量の海水を注入しているとすれば、それは溢れて地下 水層か海に流れだしています。

ということで、現在の状態は圧力容器、格納容器が壊れていてもいなくても同 じだと思います。壊れていなかったとしたら人為的に逃がす必要がある、それ を閉じ込めるものはない、という状態なので。

97.9.2. チェルノブイリ事故に比べるとどうか?

放出された放射性物質の規模としては、そういうわけで3/19現在の時点で 1/5 程度と思われます。原子炉の事故で歴史に残っているものでは2番目になること は間違いないレベルです。国際原子力事故評価尺度ではだいたい100万キュリー 以上がレベル7ですから、これまでチェルノブイリだけだったレベル7となる べき規模の大事故です。

97.9.3. でも、そんなに人が死ぬとかないよね?

と思います。事故から1週間、殆どの間は西風だったのは神風といってもよいと 思います。また、早い段階で 20km 圏から退避、としたのは適切な判断だった と思います。もっとも、体内被曝、特に農作物にはこれから注意が必要です。 ウィンズケール事故では汚染が大きい 500平方キロ範囲で牛乳を廃棄する処置 がとられました。今回100倍以上の放射性物質がでており、また日本の現在の規 制値は当時のイギリスの 1/10 と厳しいものになっています。

97.9.4. 再臨界はない?

私にはわかりません。但し、これまでに中性子線が測定にかかったことがある ので、連鎖反応がある程度起こったことはあるように思います。以下、全くの 想像ですが、例えば水の中で燃料のかたまり同士が接触して臨界になり、連鎖 反応がある程度進むと、熱がでて水が沸騰し、かたまりが動いてしまって臨界 から外れる、といった感じで弱く状態で自動的に調整されるのではないかと思 います。溶液なので同列に議論してはいけないのですが、 1999年の JCO の臨 界事故ではそのような形で弱い臨界が維持されたようです。

逆に、強い爆発を起こさせるためには、連鎖反応を非常に速く増幅するよい環 境を準備する必要があり、原子爆弾の設計が難しいのはそこにあるわけです。

つまり、再臨界は起こりうるが、それほど巨大な爆発になる、といったことは ないものと想像します。

なお、減速剤がないから再臨界はおこらない、というのは以下の2つの理由で 間違いです。まず、現在のところ核燃料の大半は水につかっています。また、 既に述べたように相当量の 239Pu が生成されていて、これは高速中性子でも 核分裂します。また、3号炉の燃料棒の 1/3 は MOX 燃料というもので、 これは初めから 239Pu を 4% (資料によっては9%と書いてあるけどこれはちょっ と考えにくい)ほど含んでいます。燃料の融解が起こると比重が違うのでプル トニウムとウランが分離し、主にプルトニウムが下にたまる、ということも考 えられます。

そうなると、上にウランの重い蓋があって、その下でプルトニウムの臨界が起 こることになり、ある程度の規模の爆発が可能になるかもしれません。

97.9.5. アメリカの大学の先生が、大した事故じゃないっていってるけど?

アメリカ人には対岸の火事です。それを信じるかどうかはあなたの判断です。

97.9.6. どうしてイギリス、フランス、ロシアで全然いうことが違うの?

何故でしょうね?私もわかりません。
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