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82. 次世代スーパーコンピューター中間評価報告書 (2010/1/23)

新聞報道によると、文部科学省は次世代スーパーコンピューター中間評価報告 書の「全容」を公表したとのことです。毎日新聞の記事では以下のような感じ です。

  次世代スパコン:文科省、機密を公表 「競争に勝てない」--NEC撤退前に

  政府の事業仕分けで予算が大幅削減と判定され、その後復活した次世代スー
  パーコンピューター(スパコン)事業で文部科学省は22日、これまで機密
  扱いで内容が一部非公表だった「中間評価報告書」の全容を公表した。 

  同事業では昨年5月、開発に参加していたNECなどが撤退。業績悪化が理
  由とされたが、今回の報告書では、撤退以前に当時の日本の計画では「米国
  との競争に勝つのは困難」と同省作業部会が指摘し、NEC担当部分の開発
  縮小、廃止の検討を求めていたことが分かった。 

  事業を統括する理化学研究所は競争に勝つため、110億円を予算追加し1
  1年に完成させる新計画を提示。しかし事業仕分けを経て追加予算は削減、
  完成時期も当初予定の12年中に戻された。 

  報告書は部会が昨年7月に発表。しかし開発競争のため、内容の一部は政府、
  関係企業など以外には公表されなかった。 
まあ、「米国との競争に勝つのは困難」なんてのは初めからわかりきっていた ことですし、ベクトルはそもそも必要ないとか、複合型で両方をつないで使う のにも意味はないとか、今までの概念設計評価報告書等にどうして書いてなかっ たのかが理解できない当然のことが普通に書いてある報告書です。

委員会のメンバーを見ると、 49 の評価委員会とほとんど 同じですが、以下の2名が追加されています。

   田中 英彦 情報セキュリティ大学院大学 情報セキュリティ研究科 
   研究科長、教授 
   平木 敬 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 
相変わらず計算機を使う側の人はあまりいないのですが、それはともかくとし て並列計算機を作る側の専門家を大幅に強化していて、ベクトル部分に対して 否定的な報告を作るための構成変更、というようにみえます。時系列としては、 4/1 から委員会で検討を始めて、4/22 に早速委員会から構成変更の検討の要請 がでて、その直後にベクトル部分担当のNEC から経営上の判断として撤退、み たいな発表がでた、というふうになっています。

渡辺さ んのインタビュー記事では、

  NECから製造撤退の打診を最初に受けたのは、ゴールデンウィーク前のこと。
  正直、非常に驚いた。国家レベルの重大な話なので何度も確認をしたが、
  NEC の意思は変わらなかった。結果、5月13日に東京・丸の内の理研オフィ
  スを訪れたNECの矢野薫社長から、正式に撤退の報告を受けた。
となっていますから、「ゴールデンウィーク前」が 4/22 よりあとであるなら NEC は構成再検討の要請の直後に撤退の判断をしているし、前なら実はすでに 撤退の打診があったけれど、委員会はそのことを知らないで検討をしていた、 ということになります。いずれにしてもなんだか不自然な話です。

まあ、プロジェクトとして何かを始めてしまった時に、後で方針変更をするの は規模によらず極めて難しいことで、不自然に見えようがなんだろうが、 最も問題の大きかったベクトル部分について中止という判断ができたことは あまりに時期が遅いにしても結構高い評価ができると個人的には思います。 半導体技術の発展から 25年遅れくらいの設計思想だった計画が、15年遅れく らいまで前進しているからです。もちろん、問題はそれでもまだ 15年遅れ くらいの、生産規模が大きいわけではない汎用プロセッサで並列計算機を構成 するやり方の延長であることです。それでも、競合する相手は結局のところ 特別に HPC に適しているわけでもなんでもない x86 なわけですから、コ ストをまともなものにできれば競争力がないとも限らないと思います。

私は国立天文台に異動するまでいわゆる3社、つまり NEC、富士通、日立との付 き合いは殆どなくて、x86 でない計算機を買うなら相手は Sun、SGI、DECといっ たアメリカ企業だし、 x86 だと台湾企業のマザー等を買ってました、というか、 今でも基本的には同じで、天文台のメインのスパコンは入札の結果 Cray になっ たし、GRAPE-DR のホストは ASUS マザーです。国内メーカー、特に3社から買っ ていない理由は、単純になるべく性能が高いものを安く買おうとするとそれらの 会社以外のものになる、ということです。 天文台にくると、スパコン以外にも色々な望遠鏡の制御やデータ処理の計算機 というものがあって、それが殆ど国内メーカーの計算機レンタルを使っていま す。とはいえ、計算機の中身は別に国内メーカー品ではなくて、90年代だと Sun だったりしましたし、今だと単に x86 サーバーです。

こういう計算機の値段は全く驚くようなもので、見積書に 2ソケットのサーバー 1台が400万円とかディスクアレイが 1TB当り 100万円とか書いてあったりしま す。どうしてそういうのが可能なのかと思って、試しに NEC の Express5800/R120a-1 のオンライン見積もりを作ってみたら、色々高価そうな もの(SAS ディスクとか 16GB メモリとか)を選ぶと 400万円を超える構成が可 能でした。面白いので富士通でも、と思って RX300 S5 でやってみたら、8GB のメモリを選ぶと謎なエラーになるので4GB にすると 200万円以上にするのは 困難でしたが、まあ、メモリを高価なものにできれば400万とかにできそうです。 そういう見積もりをもってくるのは、そういうので買ってくれる人がいるから ですから、買うほうに問題がある、ということではあります。国立大学の 計算機センターや、理研の次世代にしても結局は同じ問題、というところも あります。ハードウェアの思想が15年遅れ、というだけではなくて、 計算機を買う側の意識が、計算機というのは大変高価なものであるという 30年くらい前の意識のままである、ということです。
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