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58. 富士通半導体分社化 (2008/2/4)

2008/1/22 に富士通は半導体部門を分社化すると発表しました。 EETimes Japan の記事

という感じです。普通は分社化というと切り捨ての準備かな?と思うわけでで すが、今のところそういう話はでていません。しかし、富士通の半導体事業が かなり大変そうであることは、 Via Isaiah プロセッサに関する Via の関係 者の発言からも推測されたりします。発言は この記事 の真ん中辺ですが、

    我々は複数のファブを検討した。性能はもちろんだが、コストパフォーマ
    ンスが高いことも重要だ。その結果、我々は65nm世代に関しては富士通が
    ベストだと判断した
ということで、性能よりも値段重視で富士通を選択した、という内容です。か なり安い価格が提示されたものと思われます。TSMC あたりに比べても安いなら かなり激しいものです。 そういうわけで、富士通が 45nm 以降も独自開発を続けるのか、あるいは何度 も噂にでているように東芝を中心とした連合に参加するのか、というのはかな り微妙な話になってきています。

そうすると、ここでの問題は、富士通の HPC 向け製品は一体どうなるか、 ということです。

結局のところ、自前のファブなしでハイエンドプロセッサを作れるか?という のはかなり疑問です。特に、高いクロックのものを作ろうとするならそうなり ます。単純な話、現在ある程度以上に高いクロックで動作しているチップは全 て自社ファブで作られているからです。といっても例えば2.5GHz 以上で動作し ているプロセッサは今のところ AMD, IBM, Intel のものしかないわけで、自社 で作ったからといって何かできるかどうかも明らかではありません。

とはいえ、そういう意味では自社ファブでいいのはクロックをあげられるとい うことくらいです。Windows 用でシングルスレッドの性能が高い必要がある、 というのでなければ別にクロックをあげる必要はないわけで、特にどうせ並列化 する HPC アプリケーションではシングルコアの性能には殆ど意味がありません。

富士通は SPARC64 VII ではチップ内のコア間の通信や同期のオーバーヘッドを 他社製品に比べて非常に小さくする努力をしているようで、これが実際のアプ リケーション性能にどのように反映されるかは非常に注目されます。天変地異 でもなければ JAXA の機械はこれになるでしょうから、そう遠くない将来に数 字がでてきます。本当は、そういう方向をもっと進めて、低い動作クロックと 高い並列度でなんとかしたほうが良いわけです。

まあ、そういう方向は Sun が Niagara/Rock で追求しているわけですが、Sun のは HPC 向けではなくて細粒度並列処理に関するサポートとかももちろんあり ません。ですから、富士通がそういう方向を追求することは意味があり、メモ リバンド幅や実効性能あたりの価格で x86 系をある程度でも上回ることができ るならそれなりにマーケットはあるでしょう。

とはいえ、ここで何度も書いたように、ソケット当りの性能が若干良くても値 段が 10倍では話になりません。値段 10倍で売るならメモリバンド幅と演算速 度の両方をそれなりに高くしておく必要があり、演算性能が低いままメモリバ ンド幅だけを上げて HPC 向けといってもマーケットは限られてしまいます。自 社ファブにしてもそうでないにしても、 SPARC64 は、 HPC 向けに真面目に売 る気があるならもうちょっとなんか考えるべきでしょう。

JAXA に入るはずの富士通の次期機種は SPARC64 VII で 2.5GHz、 4 コア、4 演算で 40Gflops に対してメモリバンド幅が 40GB/s 程度と発表されています。 ハイエンド PC では DDR3-1600 が現在既に利用可能で、名目では2チャネル構 成ではメモリバンド幅は 25.6GB/s に達します。まあ、Intel の場合は現状で は FSB が 64ビット幅 1600MHz なので実際にこのバンド幅がでるわけではあり ませんし、AMD のほうはまた DDR3 のサポートは Shanghai かそれ以降なので すが、しかし、x86 とそれほど差が大きいわけでもない、というのも確かです。

まあ、それでもソケットあたりの値段を 100万以下にできれば Cray XT5 あた りとは対抗できなくもないわけですが、小規模ないし中規模の PC クラスタと は対抗するべくもありません。この辺は1ノード 10万で組むことができるわけ ですから。 Cray のようにハイエンドだけを相手にするならともかく、プロセッ サから作るならもうちょっと数を出す必要があります。で、そのためにはやは り価格性能比が問題です。
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