Previous ToC Next

6. 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)その2(2020/5/2)

5 では、 3月19日資料 について

   まとめると、専門家会議の R の推定は、そもそも使えるはずがない期間の値
   を意味があるように議論するという初歩的な間違いと、どうやって計算したの
   か不明だがおそらく過小評価になっている、という問題があり、全く信頼でき
   ないものである、ということになります。
と批判しました。昨日公開された 5月1日資料 でどうなっているかを以下簡単にみていきます。

要点は、一見指摘された問題点を理解しているようにみえるのに実際には明ら かに間違った解析結果になっており、全く信頼できないことには変わりがない、 ということになります。

以下、理由を簡単にまとめます。

資料に「【図 4.東京都における実効再生産数】」なるグラフがあります。

Figure 4: 5月1日専門家委員会見解の図4。東京都の日毎の感染者数(黄色棒グラフ)と 推定実効再生産数(青曲線)

これから、以下のように議論しています

   東京都においては、感染者数が増加しはじめた 3 月 14 日における実効再
   生産数は2.6(95%信頼区間:2.2、3.2)であった。3 月 25 日の東京都知事に
   よる外出自粛の呼びかけの前後から、新規感染者数の増加が次第に鈍化し、
   その後、新規感染者数は減少傾向に転じた。この結果、4 月 1 日時点での
   直近 7 日間における東京都の倍加時間は 2.3 日(95%信頼区間:1.8,3.8)で
   あったが、5 月 1 日時点での直近7 日間の倍加時間は 3.8 日(95%信頼区
   間:2.6, 6.7)となった。また、4 月 10 日の実効再生産数は 0.5 (95%信頼
   区間:0.4, 0.7)に低下し、1 を下回った。4 月 10 日時点のみならず、引
   き続き、実効再生産数の水準がこのまま維持されるかを注視していく必要
   がある。
ここで、まず注意するべきことは、図の説明に

   実効再生産数の推定においては右側打ち切りを考慮した推定を実施してい
   るが、潜伏期間と発病から報告までの遅れのため、直近 20 日間は推定感
   染者数と実効再生産数を過小評価する可能性があるため、データを省略し
   ている。
と書いてあることで、これは、
5

23 を比べると、3月にはいってからは基本 的にあってない、ということがわかります。これは上に述べた理由で極めて当 然のことで、図 3 も3月10日以降はRが小さくでていると思って よいでしょう。

と書いたことが意識されているかどうかはともかく、明らかにおかしなことは 修正した、というふうにみえます。

まず、このことは、「3月19日資料の見解は全く間違っていた」ということを 専門家会議は認めたに等しいですがそう明確には書いていない、ということで あることに注意して下さい。逆に、 「実効再生産数の推定においては右側打ち切りを考慮した推定を実施してい る」と書くことで、我々は3月19日資料の見解の間違いを認めない、と宣言し ています。

では、今回の見解は大丈夫なのでしょうか?

明らかに奇妙なのは、日毎の感染者の数が、 3月28日頃に180人ほどのピークを 迎え、それから急速に減少して 4月12日には10人以下となっていることです。

Figure 5: 5月1日までの東京での陽性確定者のグラフ。 https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/ から。

5 に、東京での陽性確定者数のグラフを示します。 まず、4月22日から5月1日までの10日間だけで、1000人以上の陽性者がでていま す。この多くはこのグラフを延長した4月12日から22日の間に感染したと考え られ、この期間には平均的に1日100人程度の感染者がでていなければ数があい ません。しかし、このグラフを延長するなら、0と10人の間、となり、完全に 矛盾しています。もうちょっと前に感染していたとしても事情は変わりません。

おそらく、陽性確定者数から推定感染者数をだすモデルになんらかの誤りがあ るものと思われます。

Figure 6: 5月1日専門家委員会見解の図2と図4を重ねたもの。

6 に、資料図2にある発症者数と図4にある感染者数を重ねた ものを示します。これは数日ずれていてそのこと自体はよいのですが、 なぜか4月後半ではずれが大きくなっていきます。

(ここ最初に追加したものは間違いがあったので修正しました)

Figure 7: 5月1日専門家委員会見解の図2と図4を重ねたもの。感染日と発症日の違いを考 慮して横にシフトしている。

7 に、図 6 で横軸をシフトしたもの (あと縦軸も同じスケールに合わせています)を示します。ピークの左側はよく あっているのですが、右側で図4の黄色の線のほうが速く落ちることがわかり ます。感染日と発症日の間隔のモデルによってはこういうことがおこっても よいのですが、それが現実を表現しているかどうかは別の問題です。

一つの可能性は、本来は、最新のデータまでの陽性確定者データを使って、20 日前の4月12日までの感染者数を推定しないといけないのですが、間違えて どこか以降の陽性確定者数をゼロにしてしまったのではないか、というもので す。そんな馬鹿なことをしているはずはないと思いたいのですが、、、

もうひとつの大きな問題は、実際の陽性確定者数が感染者の全てである、ない しは少なくともその割合は一定であると仮定しているようにみえることです。 これは西浦氏が4月24日におこなった説明会 「診断バイアスを補正しないといけない」と明言していることと矛盾するものです。

Figure 8: 西浦氏4月24日説明会録画から。多重代入法について

Figure 9: 西浦氏4月24日説明会録画から。多重代入法によって推定した結果

西浦氏の発表資料を録画から 図 89 に示します。 補正率は次第に大きくなっていて、3月27日には2倍以下だったのが4月12日に は3.5倍程度と、おそらく2倍程度に増えていることがわかります。

少なくとも西浦氏はこの補正を行わないと意味がない推定になる、といってい るにもかかわらず、専門家会議の推定はそれすら考慮されていないようにみえ るわけです。

繰り返しになりますが、ただちに専門家会議の体制を見直して初歩的な間違い 等が起きないようにする必要があります。
Previous ToC Next