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27. パブコメ:新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた御意見の募集について(2013/12/23~

新しい「エネルギー基本計画」に対する意見募集 というものがでています。〆切は 2014/1/6 です。

すでに色々なところで色々な人が書いていますが、この 「エネルギー基本計画」は極めて大きな問題をもつものです。端的には、問題 は、

ということになるでしょう。それぞれもうちょっと具体的にみると、 原子力をベース電源と位置付ける根拠となる文は

  燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内
  保有燃料だけで生産が維持できる準国産エネルギー源として、優れた安定供
  給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には
  温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に引き続き活用
  していく、エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電
  源である。
ですが、これをを解読すると、「運転コストが低廉」であることがベース電 源である大きな理由とされていることがわかります。が、この 「運転コストが低廉」という表現は曲者で、運転コスト以外のことをここでは 考えません、と暗黙に宣言しているわけです。原発のコストは「運転コスト」 だけではなく、

といったものがあるわけです。もちろん、既に建設してしまった原発を動かす ことについては、改めて建設費はかからないですし、また廃炉費用はどうせか かります。しかし、それ以外の全ては「運転コスト」とは別に発生するもので す。

事故防止のための追加費用を見ると、いわゆる新規制基準に対応するための 費用は 経産省の見積り では1.6兆円以上ですが、本当にこれだけですむのかどうかはわかりません。

というのは、十分な安全対策がとられたとされるいわゆる第三世代炉の建設費 は恐ろしく高いものになっているからです。フランスで現在建設中の フラマンヴィル原子力発電所は、EPR(欧州加圧水型原子炉)で 165万kW の電気 出力をもつ最新型ですが、建設費用が当初の 35億ユーロから 85億までふくら んでいます。また、フィンランドで建設中のオルキルオト原発もやはり EPR で、30億ユーロから66億までふくらんでいてどちらもまだ完成していません。

安全対策費用がわずか 1.6 兆円、原発一基あたり300億円程度ですむ、ということ は、もちろん、ここで行われる安全対策がEPR(欧州加圧水型原子炉)でとられ たような徹底的なものからはほど遠い、ということを意味しています。

つまり、文書に書いてある「世界で最も厳しい水準の新規制基準」というのは、 少なくともヨーロッパで現在建設中の最新式原発程度の安全水準を要求するもので はない、ということです。もちろん、ヨーロッパでも旧式原発が相変わらず運 転中であり、その中のもっとも危険なものに比べると安全、という程度の基準 にはなっているのかもしれません。が、 「世界で最も厳しい水準の新規制基準」という言葉から想像されるようなもの ではありません。

そういうわけで新規制基準は信用できないですから、当然事故はこれからも 起こる、ということになるでしょう。福島原発の事故処理コストは10兆円で収ま る気配はなく、どこまで膨らむかわかりません。もしも次の事故がおこれば、 損害額は同じ程度かもしれないですし、事故の進展と気象状態によってはさら に1桁以上大きくなるかもしれません。

使用済燃料の処理等の費用についても、これは文書に書いてあるとおり、 「世界共通の悩みであり」現状では「将来世代に先送り」されている わけですから、もうなにをかいわんやですが、もうちょっと我慢して読んでいくと、

 (3)対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組 

 使用済燃料は世界共通の悩みである。原子力利用に伴い確実に発生するもので
 あり、将来世代に負担を先送りしないよう、現世代の責任として、その対策を
 確実に進めることが不可欠である。このため、使用済燃料対策を抜本的に強化
 し、総合的に推進する。

 高レベル放射性廃棄物については、国が前面に立って最終処分に向けた取組を
 進める。これに加えて、最終処分に至るまでの間、使用済燃料を安全に管理す
 ることは核燃料サイクルの重要なプロセスであり、使用済燃料の貯蔵能力の拡
 大へ向けて政府の取組を強化する。あわせて、放射性廃棄物の減容化・有害度
 低減のための技術開発を進める。
と書かれています。その具体的な中身を見ると、使用済燃料対策は、まず直接 処分の検討、使用済燃料の貯蔵能力の拡大、となっています。これは自体は、 再処理が現実的にできる見込みがないことをふまえた対応として高く評価でき るものです。が、直接処分というのは要するに使用済燃料を当面なにもしない で保管する、ということで、対策を将来へ先送りする以外のなにものでもない わけです。それを「対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組」と書いてし まう精神構造には大きな問題があるでしょう。また、そういうわけでほぼ 不可能という認識であろうと思われる再処理と高速増殖炉について、相変わら ず

 3)放射性廃棄物の減容化・有害度低減のための技術開発 
  使用済燃料については、既に発生したものを含め、長期にわたって安全に管
 理しつつ、適切に処理・処分を進める必要があること、長期的なリスク低減の
 ため、その減容化・有害度低減が重要であること等を十分に考慮して対応を進
 める必要がある。こうした課題に的確に対応し、その安全性、信頼性、効率性
 等を高める技術を開発することは、使用済燃料の対策の柱の一つとして重要な
 意義を有する。
  このため、放射性廃棄物を適切に処理・処分し、その減容化・
 有害度低減のための技術開発を推進する。具体的には、高速炉など、放射性廃
 棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし、放射性廃棄物の処理・処分の安
 全性を高める技術等の開発を推進する。
というような記述をしてしまっており、部分的には原子力政策が現実的になっ ているものの全体としては非合理的なものとなっていることを明らかに示して います。

このようなわけで、現在の「エネルギー基本計画に対する意見」なる文書は、 経済的、技術な観点からはサポートできない「原子力はベース電源として重要」 という主張をしているものであり、とても受け入れられるものではない、と いうことになるように思います。
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