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24. 地下貯水槽 (2013/4/23)

4月になってから、東京電力が福島第一原発の敷地内に作った地下貯水槽から 高濃度の放射性物質を含む水が大量に漏れた、ということでメディアでもある 程度は取り上げられていました。これがどういう話なのかを少し整理しておき ます。

まず、漏れた量ですが、東京電力の発表では 120トンです。これはどのように してでてきた数字かというと、ほぼ一杯にしてあった3号地下貯水槽の水位が なにもしていないのに数センチさがっていて、それから消えた水の量を計算す ると120トンになる、というものです。

では、漏れた水はどういうものか、というと、セシウムを除去し、逆浸透膜で 若干濃縮したあとのもので、ストロンチウムを始めとする様々な放射性物質を 非常に高い濃度で含んでいるものです。ストロンチウムの濃度はおよそ 3億ベクレル/リットル程度あったようです。

これから単純に計算すると、漏れた放射性物質の量は36兆ベクレルとなります が、東京電力の発表では 7100億ベクレルとおよそ 1/50 ということになって います。これは、漏れを検出した孔での水のその発表をした日の放射性物質の 濃度が600万ベクレル/リットル程度で小さかったのですが、何故かその数字に 漏れた水の量を掛け算して漏れた放射性物質の量とした謎な計算によっていま す。

東京電力の主張が意味があるものであるためには、漏れた水が漏れた時にどう にかして放射性物質の98% をどこかにおいてでていっていなければなりません。 そんなことが自然に起こるなら東京電力が汚染水処理にこんな苦労をしてなく てもよさそうな気がするわけで、もちろんそういう可能性もあるのかもしれま せんがまああまり考えにくいでしょう。なお、この 7100億ベクレルという発表 のあった次の日には、測定した放射性物質の濃度は600万ベクレル/リットルか ら700万ベクレル/リットルにあがっていましたが、東京電力は 7100 億という 数字はそのままにしています。

さて、まずこの汚染水というものがどうしてそこにあるのかを思い出してみま す。 2011年3月から爆発した福島第一1-4号機の炉心とかそのあたりに水を掛 けつづけているわけですが、水をかけるだけだと当然溢れるので、その水を回 収して循環させる、としたいわけです。ここで、何故なのか私には理解できて いないのですが、回収した、放射性物質がはいった水をまたそのまま冷却に使 うのではなく、放射性物質をセシウム除去装置や逆浸透膜装置で取り除いた、 綺麗になった水を冷却に戻す、ということをしています。

これが上手く回っていて、水が循環しているならどんどん汚染水がたまるとい うことはないはずなのですが、現実には1日に400トン程度増えています。増え るのは、要するに原子炉にいれている水より回収している水が多いからで、多 くなるのは建屋の中に地下水がはいってきているからです。何故はいってくる かというと、おそらく建屋のどっかわからないところにひびがはいっているか なにかで外側とつながってしまっているので、地下水がはいってきているから です。

まあその、地下水がはいってくるのは、建屋の中の水の量(というか水位)を低 くしているからですが、低くしている理由は、逆に高くすれば今度は汚染水が 外側に溢れだして地下水を汚染するからです。まあそれなら、汚染水が増えも 減りもしないような、ちょうどいい水位に保っておけばいいのでは?という気 もしますが、それでは外に汚染水が漏れてしまうかもしれないから、というこ とである程度流れ込むようにしているということになっています。

とはいえ、では1日400トンも余計に吸い出す必要があるのかとか、逆に400ト ンで本当に十分なのか、といったことは特にきちんとした検証がされている わけではないようにも見えます。

さて、400トンずつ増えるのは結局そういうわけで地下水が流入した分です。 なので、もうちょっとなんとかするには色々なアプローチがありえるわけです が、現在東京電力がやろうとしているのは

  1. 地下水が流入しないように手前でくみあげて地下水位を下げる
  2. 汚染除去した水を海に捨てる

というところです。どちらも問題があります。 地下水位を下げることの問題は、 そもそも外に水がでていかないようにするために建屋内水位を下げているわけ で、地下水位を下げてもそれに応じて建屋内水位を下げないといけないだけで なんの解決にもならない、ということです。

水位を下げていくとどこかの時点で核燃料が露出する(全て地下にもぐってし まったのではないなら)わけで、そうすると放射線レベルも温度もあがって手 に負えない状態にもどってしまいます。現在でも1-2MW程度の発熱(原子炉1基あ たり)はしているはずで、これは決して小さな量ではありません。

では海に捨てれば、というと、これはまだセシウム以外の放射性物質の除去を することになっている装置がちゃんと動いていない、というのが問題の一つ、 もう一つはそれが動いたとしてもトリチウムは除去できないのでたれ流しにな る、ということです。

色々手詰まりになっているような気がします。

結局、基本的な問題は、地下水系と建屋がつながってしまっているので水が外 に流れ出ないようにするためには逆に流れ込むようにしないといけなくて、そ うすると汚染水が増える、ということなわけです。なので、この問題を解決す るには原発周りの地下水系から建屋を隔離する必要があり、東京電力でも そのような遮水壁を計画していました。が、良くわからない理由でこれは 放棄されていて、そのために現在の問題がおこっています。

東電資料では 「陸側遮水壁では、建屋周辺の地下水位低下量のコントロールができないため、建屋内滞留水位より も建屋周りの水位が低くなる恐れがあり、滞留水が流出するリスクがある」 としています。これはかなり意味がわからない主張で、 遮水壁が実際に意味があるものなら、必要なら水をいれて水位を制御すればす むことのように思います。本当の理由は遮水壁は費用がかかる、あるいは実は こんなものは上手く作れない、といったところではないでしょうか。

で、そういうわけで汚染水が増えつづけているのでためておくのが大変になり、 東京電力では安価につくれる貯水槽というものを導入しました。これは、基本的には 地面を掘り下げてそこにポリエチレンシートをしいて、その上にコンクリート を打った上にプラスチックの枠をおいてさらに上に蓋をする、という代物です。 素人考えでもポリエチレンに亀裂や穴があきそうですが、実際にそういう問題 がおこって上の書いた100トン以上の汚染水がどこかに消える、ということが 起こったわけです。

この貯水槽の工事をしたとされる前田建設工業は、 ファンタジー営業部でマジン ガーZの基地といったもののもっともらしい見積り をだしていることでも有名ですが、そのシリーズの ひとつ で以下のような記述をしています。

 O部長 そうか、そこから始めなければな。まず最終処分場は一般廃
        棄物用と産業廃棄物用の二つに分けられる。当社で実績の多いのは一般廃棄物処
        分場だよ。今回作ろうとしている産業廃棄物処分場については技術的に簡単な順
        に「安定型」「管理型」「遮断型(←非常に特殊。日本にも数件しかない)」と
        分かれてる。
 C主任 私がもてぎで見学させて頂いたゴミ処分場はどれにあたりますかね。
 O部長 遮水工があるということは浸出水に対策しているから「管理
        型」の産業廃棄物処分場だろうね。
 B主任 じゃあ我々が目指すのは「より進んだ管理型」っちゅうわけ
        でっか。
 O部長 そうだね。でウチはだな、特に遮水工に工夫が出来るんだ。
        一般的にはC主任がもてぎで見たような遮水シートやアスファルトフェーシング
        などが使われたりするんだけど、それを鋼板でするんだ。
 C主任 ずいぶんとオーバースペックなような気もしますね。
 O部長 これまで実績の多かった遮水シートには傷が入りやすいとい
        う欠点があるんだ。鋭利な廃棄物が動いたりしてね。廃棄物をハンドリングする
        重機自身も原因になったりするし。だから電気を通しそれを測定することで漏水
        箇所を特定するシステムを建設各社持ってたりする。
 B主任 ウチにもあるやないですか。
 O部長 そう。だから鋼板遮水も漏水検知システムや補修手間などラ
        イフサイクルコストで見れば、決して過剰ではないということさ。
要するに、「遮水シートには傷が入りやすいという欠点がある」ことは昔から わかっていて、そのため補修が必要なものである、ということも良くわかって いたわけです。高濃度の放射性物質がはいった汚染水をいれて、補修が必要に なったら一体どうするつもりだったのかは私の理解を超えています。

このような、すぐに破綻することを何故かやってしまう、というパターンは 3.11 のあとずっと続いてきているわけです。
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