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9. 今何をするか(2)(2011/12/17)

1 で、何ができるか、何をするべきか、ということを少 し考えました。そこでは、あくまでも身の回りについて、

ということを目標にしています。これらの目標を達成するためには、測定がで きればもっとも確実です。

以下、まずはその辺の身の回りの話について、かなり繰り返しに近いですが もう一度考えます。

9.1. 外部被曝ないし身の回りにあるセシウム

外部被曝については、それほど高価ではない機械でも測定可能です。特に、 0.3uSv/h とかの高いところでは測定が容易です。

高いとわかったら一体どうするのか、は難しい問題ですが、結局のところ なんとかできそうならなんとかするし、どうにもならならそうであれば可能な ら引っ越す、それも無理なら、、、ということだと思います。

但し、子供の放射線への感受性は大人のそれより桁で大きい可能性がある、と いうことは忘れないで欲しいと思います。

もうひとつ、「外部被曝」と書きましたが、身の回りにある放射性物質は 密封されて漏れだしてこない、というわけではなく、土壌の粒子に結合 していたり、コンクリートやアスファルトの表面近くに結合していたりします。

なので、土壌の場合には靴についたりして家の中まで運ばれたり、手についた ものが口からはいったりします。アスファルトの道であれば、車が通れば アスファルトが摩耗して、高濃度の放射性セシウムを含む微粒子がまきちらさ れることもありえます。

例えば空間線量率が 0.5usv/h のところでは、Cs-137 と 134 を合わせて20万 ベクレル/平方メートル程度ですから、わずか1平方センチ分のものでも20ベク レルの放射性物質があるわけで、そういうものを摂取してしまわないように十 分な注意が必要、ということになってしまいます。実際、法律で定められた 「放射線管理区域」は4万ベクレル/平方メートル以上と定められていて、日本 の法律では本来 20万ベクレル/平方メートルの放射性物質がむきだしでばらま かれているところに一般の人をたちいらせてはいけないことになっています。 これは、外部被曝と内部被曝の両方を考慮した規則であると思われます。

いくつか報告があるように、家庭内で使っていた掃除機やエアコンのフィルタ にたまったホコリからはかなり高濃度の放射性セシウムが検出されています。 人間の肺が同様な機能を果たして放射性セシウムを集めていないかどうかは あまり良くわかっていないのが現状でしょう。

内部被曝というと食品ばかりが取り上げられますが、空間線量率が多少高い (例えば上でみた 0.5uSv/h 程度)のところでは、環境中のセシウムを 様々な経路で吸ってしまう分も決して無視できないのではないかと思います。

家の中にはいってくることを防ぐのは密閉性が低い日本の家屋の構造では必ず しも容易ではないですが、原理的には外気を取り入れる換気扇をつけてそれに は十分なフィルタを付ける、といったことが考えられます。これのより、家の 中を外に比べてわずか高い圧力に保ち、色々な開口部があってもそこからはで ていくだけではいってこないようにするわけです。

もっとも、外で遊ぶ子供や、農業や建設工事、道路工事等の現場で働く人の場 合には屋内でどう、というのよりはるかに大量の土ホコリ等を吸引しているか もしれません。この辺は私には良くわからないです。現実的かどうかわかりま せんが、例えば何日かマスクをして作業してみて、マスクを精密測定してどの程度の 放射性物質が吸着されたかチェックしておくことが必要ではないか と思います。

実際に、福島市での定時降下物調査では、12月にほぼ毎日数十ベクレル/平方メー トルの Cs が降ってきています。これがどこからきているかは明らかではあり ませんが、原発からでているわけではないとすれば地表等にあるものが舞い上 がってまた落ちているというのがもっともありそうな話です。これは一旦空中 に舞いあがるわけですから、外にいれば皮膚についたり吸入したりするわけで す。この寄与がどのていどかは現在のところ不明で、無視できるという根拠も ありません。

福島の空間線量率は現在 1uSv/h 前後ですから、例えば、Cs の寄与が 0.1uSv/h あるところでは数ベクレル/平方メートル程度毎日降っている 可能性があります。福島市に比べて危険が 1/10 とはいえ、 例えば東京都でも新宿より東はそういう状態にあります。

9.2. 内部被曝ないし食品

食品については、500Bq/kg はとりあえず論外で、1mSv/年よりある程度小さく しておこうと思うと 50Bq/kg が限界、できればもうちょっと低くしたいとこ ろです。

(ここから 2011/12/22 追記)

4月から 100 Bq/kg に「厳しく」するという報道が流れました。これは IAEA/ICRP に換算係数で内部被曝だけで 1mSv/年という数字で、まあ500ほど 論外ではないですが、、、というところです。実際に福島県等で生産されたも のの汚染具合をみて、これくらいならひっかかるものはそれほどなさそう、 という観点で改訂したようにみえます。

(ここまで 2011/12/22 追記)

まず普通の野菜、穀物については現在のところ産地を押さえ ることができれば汚染度が確実に低いものを入手できるでしょう。要注意なも のの一つが茸です。これは非常にセシウムを濃縮する上、原木や菌床の上で 栽培するのでそれらが汚染されていれば産地がどこであろうと汚染されます。

肉・牛乳・卵についても同種の問題が原理的にはあります。茸程濃縮するわけ ではないですが、飼料がどこ産のものかわからなくなっているからです。実際 に牛では高濃度に汚染された稲ワラが飼料として日本のあちこちで使われて、 高濃度に汚染された牛肉が流通してしまったのは記憶に新しいところです。

魚はかなり高い汚染度になってきています。まず関東・東北の淡水魚は 現状では疑問でしょう。太平洋で近海のものも、汚染範囲が広がり、また 魚が移動するために「安全」といえるものがなくなってきています。

この辺については、やはり、測定が可能な環境を作れる人は測定する、という のが一つの方策だと思います。6 で述べたように、テ クノ AP 社の TA100、あるいは TC100S といったスペクトルをとれる機械と数 万円でできる鉛遮蔽で50Bq/kg 程度は検出できます。そうすると、検出限界は 高いにしても、全く不明、という状態ではなくなります。

また、そのような測定を多くの人が行えば、市中に流通しているものの本当の 実態を、自治体や生産者の発表とは独立に検証することができます。空間線量 の場合にそうであったように、食品の汚染についても独立な検証は必要である ように思います。

とはいえ、20万円は高いなあ、、、と思うわけですが、、、TC100S について はもうちょっと安くなって欲しいですね。

現状でどうしようもないのが外食・給食です。個人的な問題としては昼御飯を 弁当に切換えようかどうしようかというような話ですね。

9.3. 何故食品も自分で測定しなければならないか

まあ、理由は簡単で、現状では生産者、自治体といったところの検査では 十分ではないように見えるからです。サンプル調査で安全宣言がでてから、 暫定規制値を超えたものが見つかった例が相次いでいますし、 それ以前の問題として暫定規制値が高すぎます。

暫定規制値を超えるものが生産されてしまっている現状では、国がすぐに暫定 規制値を下げる、ということも期待しにくいように思います。特に、 1/10 の 50Bq/kg まで下げると、福島県の農業には致命的でしょう。例えば福島県のリ ンゴの相当部分はアウトであることは県の発表からも明らかです。また、米 についてもまだ実態が明らかではないですが少なからざる割合でアウトになっ ている可能性はあります。これまでの政府のやり方からは、そのような状態で 規制値の引き下げを行うとは考えにくいでしょう。

土壌汚染については、住民が自分でガイガーカウンターやシンチレータで 空間線量を測定し、福島県内以外にも 0.5uSv/h を超えるような高いエリアが ある、ということを示したことが自治体や行政を動かす力になりました。 食品についても、消費者側での測定が重要であるのは、粉ミルクの件でも 明らかと思います。

9.4. 暫定規制値の農業への影響

数十Bq/kg から暫定規制値の 500Bq/kg に及ぶようなものが出荷さ れてしまっている、ということは福島県の農業に対して現実には極めて大きな ダメージを与えているのではないかと思います。実際の消費者の行動としては、 目の前に青森産のリンゴと福島産のリンゴがあり、値段があまり変わらければ あえて福島産のリンゴを買う人はなかなかいないでしょう。米でもなんでも同 じことです。なので、産地がわからない形での流通が中心にならざるを得ない わけで、それは出荷価格に一定のインパクトがあることは避けられません。

農作物への土壌からのセシウム移行は数年後にはかなり減る可能性はまだ あるので、例えば今年、来年についてはかなり広い地域で出荷停止+補償 をするのが農業へのダメージを小さくするという意味では現実的な政策で あったのではないかと思いますが、実際には単純に暫定規制値を高くして なるべくなんでも出荷可能にする、という政策がとられました。

これは、単に無為無策で手をこまねいているだけという可能性も高いのですが、 結果的には政府は福島県等の農業へのダメージを「風評被害」のせいにして補 償もなしですませることができる、政府にとっては大変経済的な解になってい ます。後は、食品による内部被曝もなるべく薄く、広くばらまいて、疫学的に 検証不可能にしてしまえば健康被害の補償も最低限にできるわけです。

9.5. 国・自治体等はもうちょっとなんとかならないのか?

ここまでは、国・自治体・東電といったところはあまり役に立つことはしない ので、自分や家族を守るためにはどうするか?という観点で書いています。し かし、日本はそういう、自分の身を自分で守らないといけない国にいつからなっ たのか?水と安全はタダ、という話はどこにいってしまったんだろう?と思わ なくもありません。

とはいえ、 3.11 を境に突然駄目になった、というのもありそうにない話で、 おそらく以前から駄目なところは駄目だったわけです。水俣病等の公害や、薬 害への対応を見ると、規模は色々違いますが同じような対応をしてきています。

公害や薬害では裁判になったケースも多く、そういう時には基本的に国や企業 は被告側であり、引き起こした被害は存在しないとか原因は別にあるとか 予見不可能であったとかいった主張を展開するわけです。

つまり、法廷での戦術としては、あらゆる手段を使って被害を過小評価したり 責任のがれをしたりするわけですから、もしも現時点でそのような裁判の可能 性を考慮に入れるなら、国や東電としては今からちゃんと過小評価しておかな いといけないわけです。

自分の身を守るのは自分でするとしても、自分(と家族とかの近い人)以外はど うでもいいのかとか、あるいはそもそも日本は果たして大丈夫なのかとかそう いう種類の問題もあります。この辺、あまり考えがまとまらないのですがまと まらないままに少し書いてみます。

上に述べたように国の対応がアレな理由の根本が、これが公害問題であって産 業側の利害を無視できないことであるとするなら、それに対する対応は

  1. 公害問題に対してちゃんと対応できるやり方を考える
  2. 原子力発電は全面的にやめると決めて利害関係を単純化する
  3. それ以外

といったところですが、公害問題、それも起こってしまったものに対して国が まともな対応をした前例がある気がしないので、多少でもまともになってもら うためにはまずは原子力発電を諦めてもらうのが必須ではないかと思います。

原子力発電を続けるなら、今回のような事故が10年に1度くらいは起こること を当面覚悟するのが現実的です。ですから、必然的に、損害賠償その他を可能 な限り抑えようとする意志が働きます。原子力発電をやめることにしても まあ賠償が莫大なのは同じですが、今後何度も繰り返すのか今回1度きりかと いう違いはあるので多少はまともになるかもしれません。

今回の事故の対応をまともにするためだけに原子力発電を諦めるのは正しい選 択か?といった議論も原理的にはありえると思いますが、今回の事故は日本で 原子力発電所の運転を始めてからほぼ40年、延べ運転年数で約 1000炉年で起 きたものです。4つが完全に破壊されましたが、これを4台での事故と考えると 250炉年に1台、事故は1つと数えると 1000炉年に1台、という程度で事故がお きた、ということです。そうすると、もちろん、我々は極めて運が悪くて、 本当は10万炉年に1度のはずの事故が起きてしまったんだ、と楽観的に考えて もいいですが、そうではなくて現在の日本の原子力発電所は数百から千炉年程 度で事故を起こすものであると考えるほうが現実的です。

今回の地震では、大事故にいたったのは福島第一だけですんだわけですが、 福島第二、東海第二、女川でも電源喪失や冷却不能になる寸前であったようで す。また、2007年の新潟県中越沖地震でも柏崎原発が危機的状況に陥っていま す。事故の原因については色々な主張がされていますが、福島第一がたまたま 重大事故になっただけで、今回の地震で他の原発で重大事故になっても全く不 思議はないし、2007年にも重大事故が起こっていても不思議はなかったという ことだと思われます。既存の原発はどれも同じような問題を抱えているわけで すし、今回の事故の原因になったところ以外にもまだ欠陥が隠れているでしょ う。

そうすると、既存の原発をこのまま動かすと、期待値としては 5-15年程度で次 の事故が発生します。現在あるものを耐用年数まで動かすだけでも 1-2回くらい は事故が起こっても不思議はない、という計算です。

どの原発でも今回のような事故がおこれば相当な範囲が新たに汚染されるわけで、 そんなことが起こってもいいと思っている人はあまりいないのではないかと思 います。しかし、例えば2-3年のうちに全部止めるとしても、その間に事故が 起こる確認は1割よりも高いでしょう。

可能な限り速く全原発を停止し、今後少なくとも現在の方式(浜岡でトラブル続 きのABWRも含めて)は安全性が保証できない限り運用しないことにする、という 意志決定が今後のためにまず必要なことではないかと思います。事故原因の追 求とか補償額のなんとかとかはその後でないと真っ当にできなさそうだからで す。
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